二日目-2
「君は名を明華というのか?」
『は、はい!』
「よし、じゃあ俺も少年達にならって名前で呼ぶとしよう!俺の名は杏寿郎だ!気軽に呼ぶといい!!」
『えっ…そ、そんなことできません……!』
「何故だ!!!」
『な、何故と言われましても…』
煉獄様にそんなことはできません、と“明華”があたふたする。
俺も少年達もここに泊まりに来た客であることに変わりはないだろうに、俺だけ「様」付けのままとは。炎柱である以上鬼殺隊の中では上下関係があるかもしれないが、彼女と俺の間にそのようなものはない。いつまでも煉獄「様」では、仲良くなろうにも距離を感じて仕方がない。
うむ、困った。俺だけ少年達と年齢が違うのがいけないのか?
実際のところは知らないが、見たところ同い年くらいに思えるのだが。俺の方がずば抜けて年上のようには思えない。特に問題ないと思うが、そんなに名を呼ぶのが嫌なのだろうか。
我妻少年のことは呼んでいるのに?もしや俺は嫌われているのか?
…いや、違う。怖がられているのか。よく見たら、一歩引き下がった彼女は我妻少年の背に隠れているようにも見えた。
自分ではそのつもりがないのだが、無意識のうちに人を怖がらせていることは割とあることらしく、それが自分の目の色のせいだということも分かっている。どこを見ているのか分からなくて怖い、と。嘴平少年からも「ギョロギョロ目ん玉」と呼ばれているし。
近距離で見過ぎただろうか。でも昨日は、彼女としばらく目が合っていたと思うのだけど。
この休暇中に親しくなるのは無理だろうか。
気を落としていると、不意に明華が顔を上げた。
『きょ、杏寿郎……さん、』
「!」
それが精一杯とでも言いたそうな、か細い声で明華が呟く。
何故かは分からないが、呼んでもらえた嬉しさよりもかっと顔が火照ったのが先だった。
「…すまない、自分で言っておいて気恥ずかしくなってしまった!思えばそう呼ぶのは両親くらいだった!
そのうち慣れるから君は気にせずに呼んでくれ!!」
『……すみません、やっぱり“煉獄さん”でお願いします…』
「何故だ!!!」
『その…わたしが頑張れそうにないので……』
「…ん!?やはり嫌だったのか!?すまない!!」
『い、嫌というわけでは……』
「あぁああもーーー煉獄さん!!煉獄さんは今後明華お姉さんに話しかけないで!!」
「何故!!!」
俯かれた上に片手で顔を隠されてしまい、明華の表情が分からない。しかし「嫌ではない」という答えが聞けて安心した。嫌われたわけではなさそうだ。
だが我妻少年は不満があるようで、彼女を再び引き寄せてから俺に向かって叫ぶ。何故君に明華のことで文句を言われなければならない。本人が嫌じゃないと言ってくれたのに。
ああだこうだと言い合いを始めた俺達だったが、明華が「朝食持ってきますね…」と呟いたのですぐに場が収まった。そうだ、今から朝食だった。早く彼女の料理が食べたい。
そそくさと部屋を出て行く明華を見送りながら、今日はどんな料理だろうかと心を躍らせた。
二日目
(美味い!!…美味い!!)
(…なあ炭治郎、しばらくずっと朝からこれ聞くの?)
(うん…毎日明華さんが担当みたいだし……)
(目覚ましにはちょうどいいじゃねえか!!)
(俺そのうち鼓膜破れるんじゃないかなあ……)
END.
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