三日目-1
『あつっ』
炊き上がって間もないもち米をつぶして手で丸めていく。
昼下がり。昼食の片付けを終えてからすぐに客室の掃除をして、それからまたすぐに準備に取り掛かった。
お客様である鬼殺隊の隊士さんたちは外で訓練中。休暇といっても身体が鈍らないように鍛錬は続けるようだ。
さっき通りすがりにちらっと様子を覗いたら、息を切らしている子供たち三人に笑顔で「素振り500回追加!」と言い放つ煉獄さんの声が聞こえた。優しそうに見えるが訓練は厳しいらしい。炭治郎くんたちはさぞかし疲れているだろうと思い、差し入れに持っていこうとせっせとおはぎをこしらえていた。
『(これくらいあれば足りるかな…)』
「ここか!!?」
『わっ!?』
――バァン!
突然後ろの扉が開いて思わず肩が揺れる。振り向いたら、台所の出入り口に猪の皮を被った男の子。
『い、伊之助くん?』
「美味そうな匂いがする!!なんだ!?」
『あ…おはぎを作ってたんだ。おやつにどうかと思って……』
ずかずか部屋に入ってこられて少し困惑したが気にしないことにした。基本的に関係者以外立ち入り禁止だけど、まあ今は私がいるからいいだろう。
仮にそう言ったところで、伊之助くんにはあんまり話を聞いてもらえないような…気がする。
隣まで歩いてきた彼におはぎを載せたお皿を指さされたので、てっきり「食べていいか」と聞かれるのかと思っていたら。
「これは箸で食うもんか!?」
『え?…えっと、黒文字を用意しようと思ってたけど……』
思ってもみなかった質問に一瞬だけ動揺。
取り皿と一緒に用意してあった黒文字を指さすと、伊之助くんは何故か「なんだ」と言って肩を落とした。
「箸を教えて貰おうと思ったのに…」
がっかりした様子の彼の言葉に少し驚く。
この子が箸を使えないのだと知ったのは昨日の朝食だった。
初日の夕飯で口の周りをべたべたにしていたけど、ただ食べ方が豪快なだけかと思っていた。でも次の日、置いてあった箸を使わずに手掴みや直接口をつけて食べていたのを見て慌てて箸以外の食器を用意した。
しばらく見守っていたら匙は使えていそうだったのでほっとしたのだけれど。
自分だけ箸を使えないことを気にしていたのだろうか。それとも、私が気を遣ったせいで逆に気にしてしまったのだろうか。
後者だったらなんだか申し訳ない。
「言っとくが、俺は別に箸を使えないわけじゃねえからな!!ちゃんと使ったことがないだけだ!!教わりさえすれば三秒でものにしてやるぜ!!」
『伊之助くん、もしわたしのせいで気にしてるなら……』
「ああ!?なんでお前のせいで気にしなきゃなんねーんだ!?俺はただなんか使えないのが腹立つだけで……」
でもあいつらに教わるのはなんとなくムカつくし、お前ならちょうど良さそうだからな!と謎の指名を受ける。
よく分からないけど心配は杞憂に終わったようで良かった。炭治郎くんや善逸くんとはよく張り合っているみたいだし、単に負けず嫌いなのかな、と思う。
被り物で表情は見えないけど、その姿がなんだか微笑ましくて頬を緩めた。
「何にやにやしてんだ!!」
『…ううん、伊之助くん、ほんとに良い子だなって思って。
教えるだけならすぐできるよ。おはぎも小さめに作ったから、箸で掴めると思う』
「良い子っておま……んなことはどうでもいい!!早く教えやがれ!!」
『時間は大丈夫?今みんなと訓練中なんじゃ…』
「便所に行くって言ったから大丈夫だ!お前、忙しくてなかなか捕まんねぇから」
よし!と被り物を脱いだ彼は箸は何処だと言って辺りを見渡す。
相変わらず綺麗な顔の男の子だ。それなのにどうしてわざわざ猪の被り物をしてるのか、よく分からないけど。服も大抵上は着ていないし。
まあ、今はそんなのはいいか。
立ったまま教えるのもあれだから移動しようかと提案して、出来上がったばかりのおはぎをいくつかと食器を持って彼と一緒に部屋を出た。
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