三日目-2


  




「なんだこれ、食いづれえな!!」


『も、もう少し力を抜いて……』




伊之助くんを椅子に座らせ、その隣で彼に箸の使い方を教える。

持つところまでは私の真似をするだけだからすぐにできた。が、動かし方を教えるのが意外と難しい。
口ではうまく説明できなかったので時々手を添えながら教える。伊之助くんは力が強いみたいで、箸がミシミシ悲鳴を上げていた。




『そうそう、そのまま掴んで…』


「よし…!!」




まだ力が強い気がするが、皿に載せていたおはぎを箸で掴むことができた。ぷるぷる震える手で掴んだおはぎを口に持っていく。
小さい頃、自分が教わったときもこんな感じだったのだろうか。全然覚えていないけれど。




「……!! んまい!!」


『わあ!もうできたね!すごいすごい!』


「ふん!だから三秒もあればできるって……」


「い〜〜〜の〜〜〜す〜〜〜け〜〜〜〜〜……」




――スパァン!
突然目の前の襖が勢い良く開いて肩が跳ねた。なんだろう、ついさっきも同じような経験をした気が。既視感。


声のした方に目をやると、ものすごい形相でこちらを睨んでいる善逸くんが立っていた。




「お前に限って…そういうことはないと…思ってたのに……」


「ん?なんだ紋逸?休憩か?」


「ちっげーーーよ!!!お前が戻って来ないから様子見に行こうと思ったらここからお前と明華お姉さんの声が聞こえたんだよ!!
何やってたんだよ二人で!?なあ!?何してたんだよ二人きりで!!なあ!!!」


『お、落ち着いて善逸くん…』




叫びながら入室した善逸くんがものすごい形相のまま伊之助くんに迫る。変に含みのある言い方をされたが、箸を教えていただけなので落ち着いてほしい。伊之助くんは全然動じていないけども。
しかしわざわざ探しに来たということは、伊之助くんがここに来てから結構な時間が経っていたのだろうか。教えるのに夢中で時計を全然気にしていなかった。

少し遅れて炭治郎くんと煉獄さんもやって来たので、疑問が確信に変わって慌てて立ち上がる。




『すみません!お稽古の邪魔しちゃって……!!』


「いや、邪魔したのは嘴平少年の方だろう?世話を掛けたな!」


「おい明華!これたくさんあっただろ?俺は箸で食うからもっと寄越せ!」


『!』


「はァアア何お前?何明華お姉さんのこと呼び捨てにしてんの??はァアア??」




気付いたらいくつかあったおはぎはなくなっていて、こちらを見上げる彼に空になった皿を突き出される。急に名前で呼ばれたのでちょっとびっくりしてしまった。

…伊之助くん、この短時間でお箸が使えるようになったんだ。
なんだか自分のことみたいに嬉しくなって、「すぐに持ってくるね!」と元気良くお皿を受け取った。が、ここで煉獄さんの許可を得ていないことに気付く。
しまった、伊之助くんは稽古中に勝手に抜けて来ちゃったんだった。


「あの、」と視線を投げたら、目が合った煉獄さんはにこりと微笑んだ。




「休憩にしよう!…良ければ、俺の分も貰えるだろうか?」


『…! はい!ぜひ!』




「すぐに準備します」と言い残して台所へ走る。煉獄さん、稽古は厳しそうだけどやっぱり優しい人だ。
あと笑うとどこか幼く見えるような気がする。…なんて、本人には言えないけど。


たくさん作ったおはぎを山のように盛り付けてから慎重に運ぶ。
数分後、ここ数日毎日のように聞いている大きな声が部屋に響いていた。






三日目


(君は何でも作れるな!そして美味い!!)
(あ、ありがとうございます……!)
(見ろ紋次郎!俺は箸が使えるようになった!!)
(すごいな伊之助!こんなすぐに使えるなんて!)
(明華お姉さんのおかげだろ!二度と呼び捨てにすんなよ!!)





END.






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