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「…眠る気になれない」




いつもとは逆の位置で並んで横になる。“荷物”のことを考えると杏寿郎は壁側じゃない方がいいという判断だった。
明かりを消してからすぐに彼がぼそりと呟く。昼間のことがあったからその言葉にちょっとだけ緊張したけど、変な意味があるわけではないようで。




「順調に夜にはなったが、もし寝ている間に飛ばされたら……」


『うーん…まあ、最初の頃はよく考えてたよね。寝て起きたら元通りかもって』


「それに、明日は休みだからまだいいが、月曜日から明華はまた仕事だ。君の居ない昼間のうちに飛ばされたら、それこそ別れの言葉も伝えられない」


『うん…。でも、いつになるか分からない以上は……仕方ないよ』




寝てる間に飛ばされるのが嫌なんて言っていたらお互いに全く寝れなくなってしまう。仕事の件も同じだ。
仕事中に帰るかもと言ったって私が何日も休んで様子見することはできないし、職場に杏寿郎を連れて行くこともできない。一緒に居たがってくれるのは嬉しいけど。




「…そうだ。俺が夜の間中起きていて、明華が仕事をしている昼間に睡眠を取るようにすれば、明華ともっと長く過ごせるんじゃないか?」


『平日だけ昼夜逆転させるの?体壊しそう……』


「俺は鬼狩りだ。夜に寝ないことには慣れている」




徹夜が続くこともあるしな、とブラック企業勤めみたいなことを言い始める杏寿郎。確かに鬼が活動するのは夜だから、そういう不安定な生活には慣れているのかもしれないけど。
平日、仮に夜中から朝にかけて彼が起きていたとしても私は眠っているわけで。一緒に遊びに行くことはもちろんお話しすることも出来ないのに、わざわざ昼夜逆転をする意味があるのだろうかと思ってしまう。
できるだけ長く共に過ごしたい気持ちは私も同じだけど、無理をして体を壊してしまったらやりたいこともできなくなるかもしれない。




『一晩中わたしが寝てるのを眺めてたって暇でしょ。
どうせ急に帰っちゃうんだろうから、割り切っていつも通りに過ごそうよ。そのせいで体調崩しても嫌だし』


「むう……」


『いつ帰っても後悔しないように、寝る前も出掛ける前もたくさんキスして、言葉でも好きだって伝えるから。
昼間も寂しかったら、仕事中なんて気にせずにいくらでもメッセージ送ってくればいいよ』




できるだけ返すようにするから。
暗がりにぼんやり見える杏寿郎の髪の毛を指で掬う。「わたしからも送るかもしれないし」と言いながらその髪を耳に掛けた。




『それに……もし、最後にお別れが言えなくてもさ。
杏寿郎が帰った後も、わたしはずっと杏寿郎のこと……変わらずに想ってるよ』




ありがとう、大好き、愛してる、って。
最後に直接届けられなかったとしても、ここでずっと、変わらずに。たとえ私の声が聞こえなくても受け取ってほしい。




『…だから、今日はもう寝よ。
帰るそのときまで、ちゃんと元気でいてね。…おやすみなさい』




「愛してます」。

目を閉じる。
――私もね、本当はこのまま寝たくはないよ。でも、そうも言ってられないから。


重力で横向きに流れた雫を、彼が小さく「愛してる」と言って指で拭ってくれた。






優先


(わたしの、)
(世界でいちばん、たいせつなひと)





END.







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