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「君はまた…こんなに買ってきて……」
持ち帰った新品のベージュのニットとジーンズに着替えた煉獄さんが、どこか呆れた様子で床に散乱した服の山を見る。
身長と肩幅とウエストだけ測定して買いに出かけた先で思いのほかたくさん買ってしまった。
パジャマと部屋着と下着は必要だったとしても、それ以外は後から買い足せば良かったのに。そもそもそんなに長居するかも分からないのに。あれもこれも似合いそうと手に取った結果がこれだった。
こちらからすれば自分の選んだ服を好きな人に着てもらえるというまたとないチャンスだったので、つい。どうせ自分のお金だし。オタクは推しのために稼いでいるようなものだから。
その本人の前で感極まって泣いてしまうという失態は犯したけども。まあ仕方ないよね、煉獄さんが優しいから。
急いで拭った目元はまだ少し腫れぼったいけど、すぐに泣き止むことができて良かった。
『うんうん!すっごい可愛い!出掛ける予定ないけど!!』
「これは外出する時の服なのか?」
『そう!ジャケットも買ってきたし、髪の毛は帽子で隠して……』
「俺が帰ったら不要になるだろう?あまり物を増やさない方がいいと思うぞ」
『その時はその時!いいの、好きでやってるから』
「足のサイズ測り損ねて靴が買えなかったなあ」とぼやいたらまた呆れられた。この人に呆れられるって結構なことな気がする。
でも楽しさが勝っているのでそれどころではない。パジャマも可愛いの見付けてきたし、早く着て欲しいな。
『そろそろお風呂かご飯にしようか?どっち先がいい?』
「君の都合の良い方でいいぞ」
『うーん、じゃあ先にお風呂済ませようかな』
平日だし、やるべきことはさっさと済ませたい。申し訳ないけど先に私がお風呂に入らせてもらって、続けて煉獄さんも入ってもらって、その間にご飯の支度をするのが一番効率が良いと思う。そう伝えたら「ではそうしよう」と頷いてもらえたので、お湯を張るために風呂場に向かった。
「風呂はどうやって沸かすんだ?俺でもできるか?」
『ボタン押すだけだから、特にやることはないよ』
「…?」
このマンションには元から給湯器がついているので、お湯を張ると言っても栓をしてリモコンのボタンを押すだけ。ピンと来ていないらしい煉獄さんが頭にハテナを浮かべながら着いてくる。どうやら手伝ってくれようとしているらしい。
こうやって栓をして、このボタンとこのボタンを順番に押したらあとは自動でやってくれるの。
説明してもまだよく分かっていなさそうな顔をしていたが、湯船についた金具から水が出てきたのを見てようやくどんなものか想像がついたらしく。
そうだよね、大正時代にこんなものないよね。それより後に生まれた私のおばあちゃんの家が蛇口形式だもん。
しばらく水が出ているのを眺めていた煉獄さんと「溢れないのか?」「勝手に止まるよ」なんてやり取りをしてからリビングに戻った。
「さすがに便利になっているな…。百年でこうも違うのか」
『年々新しいものが開発されてるから、技術ってすごいなって思うよ』
「此処に慣れたら戻った時に不便に感じて仕方なさそうだ」
『確かにね』
ついでにご飯も今のうちにセットしておこう。お米をいつもの倍の量取り出して研ぐ。一人暮らしなのに二人分準備するのがなんだかくすぐったかった。
いつかこんな日が来るのかなあなんて漠然と考えていたけど、残念ながら私にはそんな予兆は皆無と言っていいほどなくて。まさかこういう形で実現するとは思ってもみなかった。…いや、決して同棲してるわけじゃないんだけど。
ふと前に目を向けたら、暇になったらしい煉獄さんが私の買ってきた他の服を眺めていた。彼の住む世界では着物が一般的みたいだから物珍しいのだろう。
食材も買ってきたし、ひとまずこれだけあれば明日一日はどうにかなる。そしたら週末に突入だ。
炊飯器のスイッチが入ったことを確認して台所を離れる。
待たせるのも悪いからさっさと入って来よう。煉獄さんに一言声を掛けて、急ぎ足で風呂場へと向かった。
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