2


――



「これは…!!」




構えていた割にあっさり終わった買い出しと、あっという間に沈んだ太陽。
夕飯として食卓に並んだ献立に胸が躍る。




「俺の大好物じゃないか!!」


『うん、さっきお芋買ってきたんだ〜』




「杏寿郎といるときくらいしか作らないしね」と明華が台所から返事をする。

目の前には薩摩芋ご飯が山盛りにされた茶碗。後から運ばれてきた味噌汁にも芋が入っていてさらに嬉しくなった。
と同時に、明日からの日々を明華も意識しているのだろうな、とも感じる。




「わっしょい!!」


『ふふ、わっしょい』


「この薩摩芋ご飯が毎日食いたい!」


『……何それ、プロポーズ?』


「うん?」




今日という日はもう少しで終わりを迎えるけれど。仮にこの日々が明日以降も続いたとして、平日は明華が家を空ける日が続く。その間に俺が帰ってしまうのを見越して、今日の夕飯に俺の好物を選んでくれたのだろう。

俺のためだからこそ作ったという薩摩芋ご飯は、理由がそれでは勿体ないくらいに美味い。素直な感想を漏らしたら、明華が頬を染めながら苦笑した。




「ふむ、求婚の常套句なのか……そうとってもらって一向に構わないぞ!」


『…はいはい』


「照れている君も可愛いな!!」


『…もう、上機嫌なんだから』




おかわりあるから言ってね、と明華が話を逸らす。両想いだと分かってからの明華が急に大人びた気がしていたので、以前のように俺の言葉で照れていると何だか安心した。当たり前だけど、明華は明華だ。
伝えられるうちに全部伝えておこう。明華がそうしてくれているように。


次の「予兆」はいつだろうか。そしてどんなものだろうか。
俺はここで明日を迎えるのだろうか。寝ている間に消えないだろうか。
帰り際、明華に感謝を伝える余裕はあるだろうか。

今日もまた、きっとお互い不安に苛まれながら眠ることになる。
とうの昔にどこかへ置いてきた「寂しい」とか「悲しい」とかいう感情が、確かに俺の中で大きく膨らんできていた。




――




「行ってらっしゃい、明華」


『…うん』




朝。
ここ最近はずっと布団に潜ったまま明華が来てくれるのを待っていたが、今日はそんな気分にはなれず。体を起こして明華の見送りのために玄関まで行く。

「バス」の時間は決まっているからもたもたしているわけにはいかない。彼女の曇った顔を見て思わず引き留めたくなったが、ぐっと堪えてその唇に自分のを重ねた。




「愛している!」


『うん、わたしも』




行ってきます、と貼り付けたような笑顔をした明華の背中が扉の向こうへと消える。
今からでも外へ飛び出て明華を無理やり掴んで引き戻すくらい訳もないが、さすがにそんなことはしない。このまま永遠の別れになるかもしれないけれど、何も彼女は遊びに出掛けたわけじゃないのだから。それくらい、俺も弁えている。




「……さて!」




独り言にしては大きい声が出たが、当然誰からも返事がくることはなく。
眺めていても何も変わらない無機質な景色から視線を部屋の中へと戻す。


今までだったらもうひと眠りしてからゆっくり起床しているところだが、今日はそうではない。
一人になった家の中で、誰に見せるわけでもないが両手で思い切り握り拳を作った。




「早速、取り掛かるとするか!」






動開始!



END.







<<prev  next>>
back