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「戦いでは死なないかもしれないが、これでは……」


『うん…だめだね』




夕飯後、単行本を積み上げて杏寿郎と議論を重ねる。

目標は「誰も死なせないこと」だけど、正直なところこれがかなり難しい。鬼滅の刃は人が死ぬ漫画の中でも特に多く人が死ぬ漫画だ。全員で生き残る道をどうやって切り開くか。
杏寿郎の死は展開さえ知っていれば回避できそうだけど、誰かが差し違えて倒すような鬼はどう倒せばいいだろう。ずっと回避しているばかりでは永遠に倒せない。どこかのタイミングで、誰かがやらなければ。

中でも“痣”の発現が特に問題で、これを「死」とカウントして回避しようとなると上弦の倒し方が分からなくなる。




「とにかく無駄な戦いを減らして、勝てる戦いになるべく戦力を割いた方がいい。少しでも負傷者を減らす」


『そのままだと勝てないとこは人増やすしかないよね。ここは……』


「うむ。そうだな…」




漫画の横に紙を広げて案を書きながら、あれじゃないこれじゃない、こうしたら次はこうなるから、と。話の流れを頭に叩き込みつつ、IFの世界を二人で本気で考える。
最初に猗窩座と対峙するところは負け試合だからあまり粘る必要はない。その次の上弦の陸戦は何もしなくても勝てるだろうけど、宇髄さんが引退に追い込まれてしまうのはできれば避けたい。
単純に考えれば助っ人を送り込めば良いのだろうけど、本来物語に出てこなかった人が加わることで出る影響も考えなければならない。下手に負傷したらその後の話に関わってきてしまう。
かと言ってあまり手厚くしすぎて圧勝しちゃうと、それはそれで無惨様から変に思われるだろうし。

ここ数日で試行錯誤した残骸が机の上に散らばる。使わなさそうな案のメモでも念のため全て捨てずに取っておいてある。
寝る前にそれらを集めて、杏寿郎に持たせている手提げに入れるのだ。もし彼だけで帰ることになったとしても、なるべく多くの情報を持ち帰れるように。




「ん……そろそろ寝ようか。日付が変わった」


『そうだね。今日はここまで』




単行本に付箋を挟んで閉じる。
まだ最適解が見付けられてないところはあるけど、結構進んだかな。あんまりのんびり議論してたら時間切れになっちゃうかもしれないし。
人の命が懸かってるから雑にはできないけど、スピード感は大事にしないと。


ベッドに移動して二人で横になる。「おやすみ」と言って杏寿郎が私の手を取って、私も「おやすみ」と返事をする。
明日は金曜日。週末になればもっとたくさん話し合いができる。少しでも多く考えて、少しでも多く記憶を蓄えておかないとな。

無限城での最終決戦はどうやったらみんなが死なずに済むんだろう。鬼の能力や倒し方があらかじめ分かってたら勝てるようなものなのかな。
杏寿郎はもちろん、他のみんなのことも大好きだから、出来ればみんなで幸せに暮らしていきたい――。


うつらうつら、「鬼滅の刃」のことを考えながら目を閉じる。
いつの間にか意識を手放していて、眠ってから何時間経っているかは分からなかったけれど。

突然身体を揺すられる感覚で現実に引き戻されて、目に飛び込んできたぼんやりした白い光にハッとした。




「明華……!!」


『…! 杏寿郎!』




電気は消して寝たはずなのに、目の前が不自然に明るく光る。それが彼から発せられているものだと理解してからの判断は一瞬だった。
彼の身体を掴んだままもう片方の手で枕元にあった荷物を引っ掴み、彼の背中越しに抱える。同じように日輪刀と荷物を掴んだ杏寿郎もまた私をしっかりと抱き、苦しいくらいの力でぎゅっと引き寄せた。


数秒もしないうちに視界が真っ白になり、同時にぷっつりと意識がそこで途絶えた。






の終わりと始まり




END.






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