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――煉獄様!…
――…炎柱!……
「ん……」
「煉獄様!」
遠くで呼ばれたような気がして目を開ける。
意識が戻ってくるうちに、それはすぐ近くからしていた声だと気が付いて。
一人や二人ではない人の気配にはっとして、ぼんやりしていた頭が一瞬で覚醒した。
「炎柱!ご無事ですか!?」
「君は……、…明華!?」
よく見知った格好をした人間が五、六人。俺を覗き込むようにして周りを取り囲んでいたが、それより先に気になったのは腕に抱えていた彼女のことだった。
地面に寝転がっていた自分の上に被さるようにしてぐったりとしている明華。慌てて起き上がると、ドサリという音と共に彼女の持っていた荷物が落ちた。腕に引っ掛かっていたのが抜けたらしい。
名前を呼んで揺すってみるが返事はなく、一瞬血の気が引いたが、呼吸で背中が上下していることに気が付いて安堵した。首元に手をやれば間違いなく脈がある。――良かった。
長く息を吐いてからその小さな体を抱え直す。ここまで来てようやく、周りにいた隊士達に目をやった。
「すまないが、状況を教えてもらえるか?」
「は、はい!先日から炎柱の姿が見えず――」
まだ混乱していそうな様子の隊士から話を聞く。
俺が姿を眩ましてからすぐ、俺の捜索及び俺が直前まで戦っていた鬼の捜索が始まった。
該当の鬼の相手は俺を含めた複数人が担当したが、三日以上経っても行方が分からなかったのは俺一人だった。時間の経過と共に、取り逃がした鬼の行方も分からなくなってしまった。
数日後、偶然本件とは関係のなかった隊士の前に鬼が出現する。討伐を試みるものの止めを刺す前に逃げられ、更に数日が経過。
ついに仕留めたのが先程で、鬼が灰になったと思ったら虚空から俺達が現れた。このまま意識が戻らなかったら明華ごと蝶屋敷へ運ぼうとしていたとのこと。
俺がこの世界から居なくなって、実に十日以上が経っていたらしい。
「(十二日……となると、俺が向こうにいた時間とは計算が合わないが…)」
「炎柱、具合は大丈夫ですか?お怪我は…」
「ああ、この通り何も問題はない!」
「それは何よりで…。ところで、その格好とこちらのお嬢さんは…?」
「これは明華に貰った寝間着だ!明華は俺の嫁だ!」
「よ……!!?」
服に着いた土埃を手で払い、明華を横抱きにして立ち上がる。手に持っていた荷物は日輪刀を含めてちゃんとそのままそこにあった。
手提げ部分に引っ掛かるように抱えていて良かった。咄嗟だったが、気を失ったら手を離してしまうかもしれないと思ったから。
――帰って来れた。明華と一緒に。この場所へ。
「怪我をしているようには見えないんだが、明華の意識が戻らない。取り急ぎ胡蝶の元に明華を連れて行きたいんだが、お館様への報告を任せても良いか?」
「はい!すぐに!」
「明華を預けたら俺も向かう。それとすまないが、君は道案内を頼めるか?急に飛ばされたせいで此処が何処なのか分からなくてな」
「かしこまりました」
辺りを見回せば、“森”としか言いようのない景色。鬼殺隊が居なかったら此処が俺の住む世界であるかどうかも判断できなかった。
どんな場所であれ長く倒れていたら危険だから、鬼の消滅と共に帰って来られたのは幸運だったと思う。まずは明華を診てもらわなければ。
目を瞑ったままの彼女に気を遣いながら、出来るだけ早く到着できるように森の中を駆け抜けた。
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