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「お館様に聞いていただきたい話があるのですが、どこまで話すべきかを明華と共に決めたいです。
胡蝶曰く近いうちに目を覚ますとのことなので、また改めて機会を頂いても良いでしょうか?」
「構わないよ。その言い方だと、余程重要なことなのかな?」
「はい。ただ、まだ情報に確証が持てていません。先に確認しておきたいことがあるのですが、それも明華が目を覚ましてからにさせていただきたく…」
「明華って子が全部の鍵を握ってるんだね。…杏寿郎のお嫁さんと聞いたけれど」
「は、はい…中藤明華と言います。連れてきたのは俺なので、俺が責任を取るつもりです」
「ふふ。早く意識が戻ると良いね」
「それじゃあ、次は二人でおいで」。
柔らかく微笑んだお館様に「はい」と大きな声で返事をして、頭を下げてから屋敷を後にする。
うっかり明華のことを“嫁”と形容してしまったが良かっただろうか。間違ってはいないのだけど。
自分で言うのに恥ずかしさはなかったのに、人から言われると少し照れた。一瞬顔が熱かった。
報告も終わったし、あとは明華の目が覚めるのを待つだけ。最初は覚えていることを出来る限り紙に書き出す作業をした方が良いだろうな。記憶が薄れる前に。
もう夜も深いから今日は戻ったら着替えて寝よう。明華の傍に居たいから、蝶屋敷のどこかに場所を借りて。
明日は任務が入らなければ父上や千寿郎に顔を見せに行きたいところだ。
胡蝶に相談した結果、明華の隣に寝床を作ってもらえてその布団に潜る。
此方の世界でも一緒に居れて嬉しい。その代わり向こうの世界から明華が消えて、きっと明日以降どこかで騒動になる。御両親には本当に申し訳ないことをした。
責任は絶対に俺が取るから、どうか許してほしい。――幸せになろう、この世界で。
やることがたくさんあるからのんびり過ごすことはできないけど、
昨日までのように、朝になったら起きて一緒に飯を食べて。昼間でも夜でもいろんなことを話して、笑い合って。此方の世界でも二人で過ごせると思って、少しばかり浮かれてさえいたのに。
次の日の夕方を迎えても、彼女の意識が戻ることはなかった。
「どこもおかしなところはないのに、丸一日目を覚まさないのは不自然ですね…」
「……」
「治療するところがないので、このまま様子を見るしかありません。常に誰かしら傍にいますので、何か変わったことがあればすぐ連絡します」
「煉獄さんもあまり此処ばかりに居られないでしょう?」と同じく“柱”である胡蝶が言う。確かに、自分が怪我でも病気でもないのにずっと明華の傍に居るだけというのは厳しい。今日は大目に見てもらえたが。
柱ならば、前線で鬼と戦わなくては。
「…明華」
起きる気配のない彼女の傍に寄る。
昼になっても目が覚めなかったので、栄養補給のための管を腕に刺してもらっていた。食事が摂れればこんなものは必要ない。
どこも悪くないのに、何故意識が戻らないのだろう。やはり目に見えない負担が掛かっていたのだろうか。だとしたらどうすれば取り除けるのだろう。このまま寝かしておけば良いものなのだろうか。
胡蝶ほどの医者が診て分からないことを俺が分かるはずがない。募った不安の行き場がなく、持て余したまま明華の手を握る。
「俺だけ無事でも……意味がないだろう」
せっかく、此処まで一緒に来られたのに。
触れた指には温もりを感じる。手首には脈もある。生きているのは間違いない。
大きな怪我をして意識が戻るまで数週間かかることは、鬼殺隊としてはそれほど珍しいことではない。俺も怪我で復帰に時間が掛かったことはある。
だから一日程度、とは思うのだけど。“原因不明”という事実がどうにも不安を煽る。向こうの世界で感じた「いつ帰れるのだろう」というのと似たような感覚だったが、今の方がよっぽど不安で堪らない。
普段と変わらぬように見える彼女が、夕日に照らされて静かに眠っていた。
この夢は、君と共に
(二人で見なければ、意味がないというのに)
END.
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