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『杏寿郎……ごめんね、面倒かけ…』
「――心配した…!!」
『!』
言い終わる前に抱き締められる。一緒に来てくれたアオイちゃんやしのぶさんのことなんてお構いなし。
杏寿郎のことだから、きっとたくさん心配してくれたんだろうとは思っていた。彼の様子を見てやっぱりそうだったみたいだと反省する。
どうしようもなかったとはいえ、悪いことしちゃったな。
本当はもっとしっかり抱き締めたかったけど、一応人前だからと思い、控えめに抱き返してからすぐに離れる。
「体は?具合はどうだ?どこか痛いところは?」
『大丈夫、ちょっとだけ頭が重いくらい。
お昼にお粥いただいたんだけど、普通に食べれたし。治るのも時間の問題……、…!』
せめてこれ以上余計な心配は掛けまいと、笑顔で「もう元気です」アピールをしていたら。
次第に目の前にいた彼の瞳が揺れ始めて、一瞬何かの見間違いかと思った。
『きょうじゅろ……』
「…良かった……っ、君が目覚めなかったら、俺は…俺は……!!」
数秒のうちにその美しい瞳からぼろぼろと雫が零れて思わず身体が固まる。が、次の瞬間には腕を伸ばしていた。
何度も触れたことのある髪の毛がふわりと頬を掠める。人前だと分かってたけど、彼がここでは“炎柱”という立場の人間だとは分かってたけど。
きつくきつく、彼の頭を抱いた。
『…ごめんね、ありがとう。わたしも、杏寿郎のおかげでちゃんとこっちに来れたよ』
「うん、……」
『もう大丈夫だから……心配かけて、ごめんなさい』
――泣かせちゃった、杏寿郎のこと。
初めて見る彼の泣き顔。
それがどれだけレアなのかは知っているつもりだから、すぐ申し訳ない気持ちでいっぱいになった。思ってたよりずっと心配させちゃってたみたいだ。
と同時に、言ったら怒られそうだけどどうしても嬉しくなってしまう。…杏寿郎、私のために泣いてくれるんだ。
よっぽどのことがない限り、人がいる前で泣くなんて絶対しなさそうなタイプなのに。
宥めるように彼を撫でていたら部屋にいたしのぶさんがこちらに手を振って、アオイちゃんも続けて軽くお辞儀をして。二人の言いたいことを察して、私も少し頭を下げる。
静かに出て行った彼女たちを杏寿郎越しに見送ってから、彼の耳にキスを落とした。
『(ありがとう、杏寿郎)』
“人前”じゃなくなったから、遠慮なく彼の頬に口付ける。
涙で濡れた唇はちょっとだけしょっぱくて、それもまた、なんだか幸せに感じた。
――
『杏寿郎はなんともなかったなんて、やっぱりすごいね』
彼が泣き止んでからしばらくが経った頃、ここに至るまでの経緯を聞いた。
飛ばされたのは例の鬼が倒されたのと同時であったらしいこと。“向こう”とは時間の流れに差があるらしいこと。
杏寿郎はすぐ目を覚ましたのに、私は丸二日以上の時間を要したこと。これは単純に体の頑丈さの違いな気がするけど、そう思うと立場が逆じゃなくて本当に良かったと思う。
私が先にこっちにトリップしていたら、目覚める前に鬼に食われて死んでたんじゃないかな。
すっかり泣き止んで見た目は普段通りに戻った杏寿郎だけど、まだどこか不安なのか、あれからずっとベッドに乗り上げてべたべたと私にくっついていた。
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