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「片付けは後にして、まずは風呂と飯にしよう。千寿郎、夕餉の支度を頼めるか?」


「はい、もちろん!」


『あれ、お父さんは…?』


「酒でも買いに行ったのだろう、気配がなかった。いつ戻るか分からないから気にせずにいてくれ。気を遣わせて済まない。
俺は風呂を焚いてこよう!」


『あ、じゃあわたしも手伝いを……』


「兄上、明華さんとご一緒に入られますか?」


「『…!?』」




この時代のことに少しでも慣れようと、杏寿郎に着いていこうとしたら後ろから爆弾発言が飛び出して思わず振り返る。杏寿郎も同じだったようで、その場で笑顔で固まっていた。
発言をした当の本人は全く悪気などなさそうで、可愛らしく首を傾げている。…いや待てよ、この時代なら「混浴」は至って普通のことなのかもしれない。なんか漫画にもそれっぽい描写があったような気がする。と一瞬考えたが、隣の杏寿郎を見る限りそんなことはなさそうだった。宇髄家が特殊だっただけ?

でもきっと千くんは私達が「結婚する」前提で話してくれていて、だからこその発言だったんだろう。彼から見て、私達はそれくらい仲が良さそうに見えていたんだと思う。
そう考えればさっきの言葉がなんだか嬉しく思えて、未だに固まったままの杏寿郎を置いて勝手に返事をしていた。




『千くんさえ良ければ、ご飯の支度してる間に二人でお風呂いただこうかな。杏寿郎、それでも大丈夫?』


「えっ!?……あ、ああ…!?」


「僕は夕餉の後で大丈夫です。兄上も明華さんも疲れているでしょうから、ゆっくりなさってください」


『うん、ありがとう』




「それでは」と千くんが先に部屋を出て行った。隣の杏寿郎はまだ固まっている。いつまでそうしてるの、と肩を揺らしたらやっと反応した。
こちらを向いた彼は時間差で顔が赤くなっていき、私も全然他人事じゃないんだけどなんだかその様が面白い。




「え、っと……君は俺と、一緒に風呂に…?」


『あー…いや、何となく流れで頷いちゃったんだけど、普通に別々でもいいよ。
ご飯の支度にどれくらい掛かるのか分からないけど、まとめて入っちゃった方が効率は良さそうだなーって思っただけで……』




「お風呂の使い方教わるのもあるし」と一応筋の通った理由を並べてみるものの、彼にとって問題になっているのはおそらくそこではなく。
まあそうだよね、とちょっと考えてから口を開く。




『なんていうか…恥ずかしいのはもちろんあるんだけど、それ言っちゃうとむしろわたしは1回見ちゃってる側だし?
単純に、杏寿郎と一緒にお風呂っていうのがなんか“家族”って感じがしていいなーって……。千くんに言われたから、余計にそう思ったのかも…だけど』


「そ、れは……。…まあ確かに、余程親しくないと風呂など一緒に入らないが……」


『杏寿郎の家来て、千くんにも会って、“結婚”って単語が出てきたからかなあー…。わたしほんとに杏寿郎と結婚できるんだな、って思っちゃった。……どのみち、恋人としては通る道だろうしね』




「杏寿郎はどう思う?」とその赤い顔を覗き込む。

自分で言っててなんだかドキドキしてきたけど、別に変な意味で一緒に入りたいって言ってるわけじゃなくて。
いわゆる「家族風呂」というのを杏寿郎とできるなら、それは幸せなことだと思った。まだ結婚はしてないどころかお父さんへの挨拶すら終わってないけど、彼はもう私と結ばれる気でいてくれているからそこはあまり関係ない。

できるチャンスが今ここにあるなら、せっかくだから杏寿郎と「家族」っぽいことをしてみたいと思った。頭の片隅に、未来への不安があるせいもあるかもしれないけれど。




「君が良いなら、……一緒に、入るか」


『うん。…あ、でもタオルは欲しいな』


「さすがに俺もないと耐えられる気がしない…。持って入ろう」




「行こうか」と杏寿郎に手を繋がれる。
恥ずかしいのか、お風呂場に着くまでこちらを向いてはくれなかった。



 



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