1


 



「『………』」




焼き魚と味噌汁が並べられ、食欲をそそる香りが湯気と共に立ち上る。

いつもならここで「美味そうだ!」などと一人で騒いでいるところだが、今日は気が散っていてそれどころではなかった。




「(まさか一緒に入ることになろうとは……)」




飯を前に、座布団の上で正座をして黙り込む。
すぐ隣に席を用意してもらっていた明華も同じように静かにしていた。


顔と体が熱い。湯上がりで火照っているというのはあるだろうが、それだけではない。
頭の中では先刻までのことがひたすらぐるぐると回っていた。入浴中は楽しく会話していたこともあって意外とどうにかなったのだが、上がってしばらく間を置いたら妙に冷静になってしまった。
今になってじわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。

タオルで隠してはいたものの、お互いほぼ裸の状態で隣り合って。
見てはいけないと思いつつもどうしても視界に入ることが何度かあって、その度に誤魔化して。
今から夕餉なのに余計なことをいろいろと思い出してしまい、それを脳内で振り払っていたら自然と無口になった。多分明華も同じで、だから今話し掛けてこないのだと思う。風呂ではあんなに話していたのに。


「いつか通る道」なのは分かっているが、まだ俺には少し早かったかなと。少なくとも手を出してはいけない状況でこれはきつかったなと。
明華はそうでもなかったのか、それとも表に出していないだけなのか。気になりはするが、直接聞くのも違うかなと思ったり。




「明華さん、苦手なものがあったら遠慮なく言ってくださいね」


『うん、ありがとう。ひとまず今は大丈夫そうかな…どれもすっごく美味しそうだね!』


「お口に合うと良いのですが…」




米を運んできた千寿郎は、いつもより人の多い食卓にどこか嬉しそうだった。父上が千寿郎に合わせて飯を食べるとは思えないから、俺がいない時は一人で食べているのだろう。
今後は明華が一緒に食べてくれると思うと兄としてもありがたい。明華はこの家で俺の家族に迷惑を掛けることばかり気にしていたが、良いことも多いと思う。
最初こそ戸惑うこともあるだろうが、千寿郎の負担に関してはむしろ減ることの方が多いのではないだろうか。


「いただきます」と手を合わせた二人を見て、慌てて自分も手を合わせた。




「兄上、お疲れですか?なんだか元気がないような…」


「ああいや、そういうわけではない!少し考え事をしていただけだ。すまないな」


「いえ、大丈夫なら良いんです。もし良ければ、兄上がいる間に明華さんとのお話を聞けたらと思って」




「きっとまたすぐ任務ですよね?」と千寿郎が言う。確かに、ゆっくり話せる時間は限られているかもしれない。
それに、今後のことを考えると。




「明華、千寿郎にはある程度話しておこうと思うのだが。良いだろうか?」


『うん、もちろん。素性の知れない人間と暮らすのもあれだもんね』


「…?」




お館様や柱への説明の際に千寿郎に一緒に来てもらうことも考えていたが、任務の話とは分けるべきとも考えていた。それに、千寿郎相手であれば仮に教える必要のない情報までうっかり教えてしまったとしても、外部に漏れる心配がない。
いきなり皆の前でこの“理解しがたい話”をする前に、ここで予行演習に付き合ってもらうとするか。

まずはどこから切り出そうかと考えながら、首を傾げている千寿郎に向き合った。




  



<<prev  next>>
back