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「先日、俺が行方不明になっただろう」


「はい。兄上と連絡が取れないと、お館様から……十日ほど前だったと思います」


『…あれ、十日?』


「うむ、どうやら時間のずれがあるらしい。
千寿郎、今からするのは突飛な話に聞こえるだろうが、全て事実だ。すぐには理解できずとも、時間が掛かっても良いから飲み込んでいってほしい。大事な話だ」


「はい!」




食事の手を止めピンと背筋を伸ばした彼に、「気は張らなくて大丈夫だ」と微笑む。大事な話ではあるが、礼儀作法が必要なものではない。
俺も正座を崩して、明華にも体勢を楽にするように言った。




「此処にいない間、俺は鬼の術によって別の世界へと飛ばされていた。具体的に言うと、百年先の日本だ」


「ひゃ、ひゃくねん…?兄上は、未来の世界に……?」


「そうだ。しかも単純な百年後ではなく、“全く別の時空にある日本”の百年後だ」




その世界には、“鬼”は過去も含めて居たことはない。概念としては存在するが、民話に出てくるような伝説的存在である。
そのため当然、俺達のような“鬼殺隊”と呼ばれる部隊も存在しない。とても平和で、武器は所持しているだけでも罪になるような世界だ。

目の前の千寿郎があたふたと思考を巡らせているであろう中、ひとまず区切りの良い箇所まで話を進める。




「突然全く異なる世界に飛ばされて、そこで出会ったのが――今俺の隣にいる、明華だ」


「…え!? ということは明華さん、未来の方なんですか…!?」


『あ、うん…。一応……』


「そういえば明華、箱膳を見たのは初めてなんじゃないか?」


『…あ、これ箱膳っていうんだ』




「見たことあったけど名前は知らなかった」と、明華が箱膳に手を触れる。向こうでは自宅でも出先でも、食事をする際はいつも背の高い机と椅子だった。箱膳は未来では一般的なものではないのだろう。
そのうちこの家にも明華の部屋にあったような家具を置いてみても良いかもしれない。どこかの部屋を改装して、洋風にして。間違いなく流行の最先端だ。


明華が物珍しそうに箱膳を見るのを、千寿郎が物珍しそうに見つめる。
単純な「初対面」というだけではない空気がそこにはあった。




「話を戻そう。
俺が居なかったのは十二日間だと聞いたが、向こうの世界とは時間にずれがあるらしい。俺は実に一ヶ月もの間、明華の家で世話になった」


「え!あ、ありがとうございます!明華さん!!」


『ううん、全然。大したことはしてないよ。それに、これからはわたしがお世話になっちゃうから…』


「知らない世界に飛ばされて、明華がいなければどうなっていたか分からない。改めてありがとう、明華」




隣にあった明華の手に自分のを重ねる。明華はこちらを見て、目が合ったと同時に微笑んだ。
俺があの一ヶ月無事に過ごせたのは、紛れもなく彼女のおかげだ。千寿郎も一緒になって礼を言ってくれる。人一人養うというのはそう簡単なものではない。

明華にひとしきりぺこぺこした後、ふと千寿郎が「あれ」と疑問を零した。



  



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