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「…! 父上だ」
『え』
「俺が出迎える。二人は少し待っていてくれ」
食事の途中だが席を立ち、玄関へと向かう。残りの大きな問題と言えばこの人だ。
千寿郎と明華だけならうまく過ごせそうだが、家には父もいる。ほとんど話す機会がないにしても、同じ家に住む人だ。黙ったままというわけにはいかない。
何と言われようと明華のことは認めてもらう。それだけを考えて廊下を進んだ。
「父上、お帰りなさい」
「…! 杏寿郎……」
「大事な話があります。少しで構わないので、来ていただけませんか」
手には酒瓶。本人からも酒の匂い。またたらふく飲んできたのか。
ただ酒が入っても意識が朦朧としたり記憶を失ったりすることはなさそうだというのが経験則から分かっているので、話をするくらいならできるだろう。聞いてくれるかは分からないが。
「着いてこい」と言われたのが気になったのか一応耳には入れてくれる様子で、怪訝そうな顔をしながらも大人しく俺の後ろを歩いてきてくれた。
「明華、俺の父だ」
『…!! は、はじめまして!!』
「…!?」
「父上。此方の中藤明華さんは、将来俺が妻に迎える予定の方です。
訳あって、今日から煉獄家に住まわせます。部屋は俺の場所を使ってもらって、父上に迷惑は掛けないようにします。必要な物も全て俺が揃えます」
「な、…」
「大筋は先日、手紙に書いて鴉に届けさせたのですが。まだお読みになられていなかったでしょうか?」
明華と対面した父の反応で、あの手紙の内容が伝わっていないらしいことを察した。予想はしていたが。
手紙が届いてからそんなに時間が経っていないので詳細は把握していなくても無理はないが、ざっと読んでくれていても良いだろうに。そんなに長い文章ではなかったはずだ。
しばらく明華と俺を交互に見て言葉を詰まらせていた様子の父だったが、どこか震えた声で「勝手にしなさい」とだけ吐き捨てると、そのまま自室へと戻っていってしまった。
『えー…っと……。これは許可を貰えた…のかな……?』
「うむ、まあ問題ないだろう。元より断られても押し切るつもりだったしな」
「父は普段から部屋に籠りっぱなしで、僕にもほとんど顔を見せません。何かあっても僕が対応しますので、明華さんは気にせずくつろいでくださいね」
もう少し口論になるかと思っていたが、あっさり終わってくれたのでこちらとしてはありがたかった。ここで父と揉めると明華がこの家に居辛くなる。
「妻」という表現に食い下がらなかったことについては、また後日何かありそうだが。もしかしたら本当に興味がないのかもしれないけども。俺が炎柱になっても「どうでもいい」と言うような父だから。
とにもかくにも、これで生活面での大きな問題は解決した。
「よし!では千寿郎、今日から明華のことを頼む!仲良くしてくれ!!」
「はい!もちろん!」
『えっと……不束者ですが、よろしくお願いします』
深々と礼をした明華の手元で指輪が光る。明華の元居た世界のように平和に過ごせるようになったら、改めてちゃんとした形で結ばれよう。母上にも報告に行かなくてはな。
それまでは、俺のやるべきことを、きっちりと。
食べかけだった食事を三人で再開する。
まだ鬼の存在するこの世界で、ひとときの幸せを味わった。
穏やかな時間
(ありふれた日々の、なんと幸せなことか)
END.
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