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『えっと……炭治郎くんは、6人兄妹の長男ですよね?』
「はい、そうです」
『今は鬼になった禰豆子ちゃんを元に戻すために、鬼殺隊として戦っていて……少し前に塁く…いや、蜘蛛の鬼と戦ったりしました?見た目が子供の男の子の…』
「はい、戦いました。あの鬼との戦いで大怪我をして、今ここでお世話になってます。何日くらい経ったかな…」
どこから聞こうか迷ったけど、時間を掛けたくないしとりあえず思いついた順に片っ端から。炭治郎くんの基本的なプロフィールから始めて、最近起こった出来事なんかを聞いていく。
私の知っていることとどこか一つでもズレたらこの先も原作通りに進まない可能性があるけど、こちらから聞いたことに関しては全部YESの返事が来た。ときどき知らないエピソードが挟まるが、そこに関しては漫画に描かれていない部分だろうから矛盾はない。
家族が突然鬼に殺されたこと、鱗滝さんに育てられたこと、義勇さんに助けてもらったこと。
善逸と伊之助という仲の良い同期がいること、禰豆子ちゃんには血が燃えるという能力があるらしいこと。
ああ、間違いなくここは「鬼滅の刃」の世界なんだなと、話を聞きながら強く思った。
「あの、俺の話ばっかりしちゃってますが、何かのお役に立ててますか?明華さん…って、もしかして鬼の研究をしてたり…?」
『ううん、そういうわけじゃないんだけど…。ごめんね、根掘り葉掘り聞いちゃって』
「いえ、俺は全然構わないんですけど、…! ど、どうしました!?」
『ううん、……』
ここが思っていた通りの世界で、思っていたくらいの物語の進み具合であるなら、この先の未来が私には何となく見通せる。「知っている」から。
自分が役立てそうだ、来た甲斐があったと喜ばしく思うのと同時に、すでに過去の出来事になっている炭治郎くんの話に申し訳なくなる。
もっと早く、物語の序盤の頃にここへ来られていれば。炭治郎くんの大切な家族も、救ってあげられたかもしれなかったのにね。
『わたしは直接戦えないから、炭治郎くん達に頼ることがどうしても多くなっちゃうけど…。みんなが生きて幸せになれる道を、頑張って探すから。これからよろしくお願いします』
「えっと……はい!俺ももっと強くなります!よろしくお願いします!」
今日のところはこれで、と炭治郎くんと別れる。初対面の私に随分といろいろなことを話してくれた。
逆に私はほとんど素性の知れない人間だったわけだけども、おそらくしのぶさんのいる蝶屋敷にいることで関係者だと思われたのだろう。“柱”の信頼を勝手に利用してしまって申し訳ないが、一応柱の関係者ではあるので許してほしい。別の柱だけど。
炭治郎くんが出て行って間もなく、入れ替わりで杏寿郎が部屋に入ってきた。
「明華、…大丈夫か?」
『うん、大丈夫。やるべきことが定まったから』
杏寿郎の指が目元をスッとなぞる。さっき拭った涙がまだ少し残っていた。
間に合わなかったことは多くある。その分、この先の未来で取り返していかなければ。私がここへ来たことで救えるものを一つでも多くしたい。それが今の願いだ。
刀を振るって鬼の首を獲ることはできないけれど、鬼の居場所や弱点の情報を伝えることはできる。作戦を考えることはできる。可能な限りで貢献しよう。
何より私には、力でも頭脳でも頼りになるこの人が傍に居てくれるから。
目の前の杏寿郎に「お願いがあるの」と切り出せば、「何でも言え」と彼は笑って私の頭に手を乗せた。
決断
END.
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