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「さて、本題に入ろうか。杏寿郎が君を、鬼殺隊にとって極めて重要な存在になり得ると言っていてね。
差し支えなければ、詳しい話を聞かせてくれるかな」
お館様の独特な色味をした瞳がこちらを向く。目が見えないのは知っているけど、不思議と目が合ったような気がした。
彼の病気の進行具合から今がどのくらいの時期なのかを察する。大体思っていたところと同じと見て間違いないだろう。やっぱりゆっくりしている場合ではないなと、その痛ましい姿に改めて感じた。
『…はい。おそらく長くなるのと、説明が分かりづらかったらすみません』
「ゆっくりで構わないよ。杏寿郎が君を此処へ連れてきたということは、“確証が持てた”ということで合ってるかな?」
「はい。明華が竈門炭治郎から直接話を聞き、辻褄が合ったので、明華の持つ情報の信憑性は高いと考えています」
『信憑性についてはわたしも絶対の自信がないので、そこはすみません。
まずは話を聞いていただいて、お館様のご意見をいただきたいです。えっと、最初にこちらの…』
ここに来る前、お館様と話がしたいと杏寿郎に相談したタイミングで、杏寿郎がすでにお館様にいくつか話していることがあると知った。
杏寿郎が不在だったのは術で異世界に飛ばされていたから。私はその異世界の住人で、この世界のことをよく知っている。協力してもらおうと思って連れてきた。
細かいことはまだ話しておらず、お館様への最低限の報告として概要を少し話しただけ。どこまで詳しく話すかは私と話し合ってからと決めていて、その話し合いをした結果が今だ。
お館様になら全部話して構わないだろう。私達の結論は簡単に言えばこうなる。
他の柱や炭治郎くん達に伝える情報は本人のことも考えて慎重に選びたいけど、お館様には全て知っておいてもらうべきだ。
鬼殺隊のトップ。経験値も知識量も並ではない。ぜひとも力を貸してほしい。
持ってきていた荷物の中から単行本を取り出して、サポート役を務めている娘さん達に表紙が見えるように両手で持つ。
『わたしの元居た世界に流通している、“鬼滅の刃”と呼ばれる冊子です。こちらは――…』
――
話が前後したり、ぐちゃぐちゃになって分かりづらかったりしたけれど。
杏寿郎のフォローもあり一旦伝えるべきところは伝え終えて、お館様の言葉を待った。
「もし本当なら、これ以上ないくらいに素晴らしい情報だ。杏寿郎、よく明華を此処まで連れてきてくれたね」
「いえ、俺は……。明華が自分の力で、大きな決断をしてくれただけです」
「それでも、杏寿郎でなければその決断はしてもらえなかっただろう?
…明華。君は最終選別を受けたわけではないけれど、これから鬼殺隊の一員として、私達と共に戦ってくれないだろうか」
『は、はい!! もちろんです!!』
「ありがとう。もし君が無惨の手に渡っていたらと思うと気が気でないよ。
望み通り、君と杏寿郎の身の安全は第一とさせてもらう。杏寿郎には今後も柱として刀を振るってもらうけど、決して致命傷を負わないように。明華のためにね」
「はい!」
「早速案を考えるよ」と、渡した単行本とメモに手を載せるお館様。会話中もそうだったけど、所作があまりにも自然でつい全盲なのを忘れてしまう。感覚が鋭いんだろうなあ。
彼が他の人を常に下の名前で呼んでいたから驚きはしなかったけど、躊躇いなく呼ばれた私の名前が嬉しかった。呼んでもらえるだけでも嬉しかったけど、正式に鬼殺隊の仲間に入れてもらえた気がして。
戦闘面じゃ何の役にも立てないから、それ以外のところで役に立てるといいな。
私個人としては一番重要だった“杏寿郎の生存”についても快諾してくれて、今のところはかなり順調だ。
「せっかく二人で来てもらったから、もう少し話をしてもらっても良いかな?」
『はい…?』
「私から話しても良いのだけどね。きっと本人から聞いた方が、皆も納得してくれると思うんだ」
ニコリとお館様が微笑む。ここへ来て話し始めてから、すでに1時間は経過しているように思える。
まだ何か話してないことがあったっけ。あるにしても、仕事で忙しいであろうお館様には余計な時間を取らせるだけの世間話な気がする。
疑問符を浮かべながら中途半端な返事をすると、意味ありげに彼は目を細めた。
「緊急の、柱合会議を開こうか」
緊急・柱合会議
(…え、今からですか?)
(うん、今から)
END.
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