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「経緯は理解した。信じがたいが、柱合会議が開かれるということは裏の取れている情報なのだろう…。
まずは皆でその“鬼滅の刃”とやらを読んで、情報をいち早く共有すべきだ…」


「それが、そう簡単に共有して良いものではなく……」


「…?」




本を渡さず渋る杏寿郎に、他の柱が首を傾げる。

実物があるのだから、今この場で全員で回し読みをしてしまえば良いのではないか。真偽や作戦についてはまた後で話し合うとして。…というのが、事情を知っている私達以外の考えだと思う。
しかし、そんな単純な話ではないのだ。




「これを読めば鬼の情報を知ることはできる。ただ同時に、鬼との戦いで誰が死ぬのかも知ってしまうことになる。
柱ですら、鬼舞辻を倒すまでに半分以上犠牲になる見通しだ」


「成程……今後死ぬであろう人がはっきりしているんですね。煉獄さんはもう知っているんですか?」


「…ああ、俺と明華は全て知っている。お館様はまだ読み切っていないだろうから、後程把握していただくつもりだ」


「別に良いじゃねェか。今更自分が死ぬことを知って悲しむような人間は、此処にはいねェよ」


「自分の命ならな。だが、他人の命となると話は別だろう?君にも死んでほしくない人がいるはずだ」


「…!」


「それに安易に情報を共有した結果、全く別の物語になってしまったら先が読めなくなる。
大筋はこの通りに進むよう調整したいから、混乱を招かないためにも、情報は必要な分だけを小出しにしていきたい。…というのが、俺達やお館様の考えだ」




何もせずにいればこの通りに進むはずなんだ、と杏寿郎が言う。その言葉に「成程ねぇ」と宇髄さんが唸った。

有益な情報がこの本の中にあるのは間違いないけれど、安易に共有するのは気が引ける内容も多い。誰がいつどこで死ぬかなんてことが出回れば確実に混乱になる。ここにいる人間も含めて、結構な人数が死ぬから。

そして鬼の弱点を知ったからと言って、片っ端から倒しまくればいいというわけでもない。ストーリーが大きく外れたものになった場合、先が読めなくなる。
最悪の場合、本来できたはずの無惨討伐が叶わなくなるかもしれない。世に出すべき情報はお館様と話し合ってから決めたい、と杏寿郎が続けた。




「仮に物語の通りに事が進んだ場合、真っ先に死ぬのは俺だ」


「!! え……」


「このまま放っておくと、俺は近いうちに上弦の参に負けて死ぬ。
明華がわざわざ自分の世界を捨ててまで此処に来てくれたのは、俺と、これから死ぬ予定の人間をどうにかして救えないかと考えてくれたからだ」




彼が私の肩を引き寄せ、再び私に視線が集まる。ここからが本題だ、と杏寿郎が言った。




「ここにある書物以外の情報は、明華が記憶していることが全てだと思ってほしい。俺もできる限り叩きこんできたが、真っ先に死ぬ予定があるのは俺だ。役に立てないかもしれない。
皆には、明華の持っている情報をもとに、なるべく物語の通りに進むよう気を付けながら一人でも多く生き残れる道を一緒に探してもらいたい。冗談でも何でもなく、俺はこの子がこの世界の救世主になると思っている」




肩に乗せられた手に、ぐっと力がこもる。


「鬼殺隊」は、人の命を救うためなら自分の命を懸けられる人間の集まりだ。ただそうだとしても、死んでもいい人間など一人もいない。できれば全員死なない方が良いに決まっている。
未来の情報が得られている今なら、命を落とさずに済む戦いがいくつもあるはずだ。

まだ信じられないことも、疑問に思うことも多いだろうけれど。どうか協力してほしい。
頭を下げた杏寿郎を見て、私も何か言わなければと隣で口を開いた。




『わたしからすれば、皆さんは架空の物語に出てくる……言ってしまえば、御伽噺の登場人物です。
でもある日、架空の人物であるはずの杏寿郎に出会って。わたしと同じように生きている彼と生活を共にして、仲良くなっていくたびに、この人が若くして死ぬことが辛くなりました。
死ぬと分かっている元の世界にそのまま帰すのが嫌で。どうにか生き延びる方法はないのかなって考えて、ここまで着いてきました』




別に杏寿郎が「生き延びたい」と思っているわけじゃないことは知っている。そしてそれはきっと、この場にいる他のみんなも同じで。
自分の命で誰かが救えるなら、自分は死んでも構わないと考えていることは知っている。でもそれが私には辛かった。
“鬼滅の刃”が最後に平和な世界になって終わるのを知っているからこそ、そこにみんなにもいてほしかった。



 



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