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『杏寿郎に生きていてほしいのはもちろんですが、わたしは皆さんにも生きていてほしいです。
平和になった世界で、ここにいるみんなが笑っていてくれるのが……わたしの、今の夢です』
初対面の人間に、こんなこと言われたって響かないとは思うけど。むしろなんだこいつって思われると思うけど。
でもこれが私の素直な気持ちだから、ありのままを話したい。
『…正直、どう救えば良いのか分からない人もいます。
でも、柱の皆さんがいれば……被害を最小限に抑えることはできると思うんです。本当はわたしが戦えれば良いんですが、わたしには皆さんのような力はないので…。どうか、お願いします』
まだ何の信用も勝ち取れていないし、得体の知れない人間だとは思うけど。杏寿郎を助けるためにも柱の協力は絶対だし、みんなの意見もたくさん聞きたい。はっきり言って課題はまだまだ山積みで、どうしたら良いのか分からないところも多いから。
いろんな意味で部外者な上に本当なら“柱”とこうやって話ができる立場じゃないからとにかくいたたまれなかったけど、思いのほか返ってきたみんなの声色は優しいものだった。
「協力してほしいも何も、戦う鬼の情報を予め教えてくれるなら此方としても願ったり叶ったりだ。情報が確かなら、反対する理由がない」
「私も、伊黒さんと同じ意見です!!」
「上弦の倒し方に、鬼舞辻の倒し方まで書いてあるとはなァ……アンタがどこの誰だかは知らねえが、本当ならまじで“救世主”モンだよ。本当ならなァ?」
「私も反対はしませんが、情報の根拠については後で詳しく知りたいですね」
「ああ、勿論話すつもりだ!!」
杏寿郎の顔がぱあっと明るくなる。半信半疑の中でのとりあえずの了承といったところだと思うけれど、これで第二のハードルをクリアした。
まだこれから実現に向けて具体的な策を練る段階だけど、原作の死亡キャラの生存ルートが見えてきた。あの日私と杏寿郎が出会い、お互いの世界を飛び越えてここに辿り着いたことが意味を成してきた。
最終回のあの写真。展開に不満はなかったけれど、あの中に杏寿郎達がいてくれたらと、何度思ったことか。
じわりと滲んだ涙が零れて、それを隣の彼が拭ってくれた。
「…ウーン……」
「なんだ、宇髄?」
「“救世主”っていうよりかは、“女神”って感じだな。雰囲気的にも?」
――俺達のために泣いてくれるんだな、救いの女神様は。
どこか茶化すような物言いではあったけど、宇髄さんの浮かべた笑みは優しい。
やがてそれまで黙っていたお館様が「話はまとまったかな」と言って、この会議の終わりを知らせる。
「実戦でどこまで通用するのか見極める必要はあるけれど、明華の持ってきた情報は有益そうなものが多いんだ。剣士たちの犠牲を一人でも減らせるよう、私も努力するよ。
まずは杏寿郎。君が死なないところからだ」
「…はい!!」
「それと、明華の身を常に安全な所に置かないとね。君の存在を無惨に知られてしまうのは避けたいから、何か対策を練ろう」
『は、はい!よろしくお願いいたします…!』
「皆も分かってると思うけれど、明華は杏寿郎がいたからここまで来てくれたんだ。今後は少し杏寿郎を優先することがあるかもしれないけど、皆、よろしくね」
「キャーッ!! そこのところ後で詳しく聞かせてね、明華ちゃん!!」
『う、うん……』
不意に蜜璃ちゃんの甲高い声が響いてびっくりしたけど、心は穏やかだった。みんなが私達と同じ方向を目指してくれることが分かったから。
この機会をくださったお館様にも柱のみんなにも、そしてもちろん杏寿郎にも。精一杯の感謝を「ありがとうございます」という一言に乗せて伝える。
願わくば、ここにいるみんなが、
誰一人欠けることなく、あの写真に笑って写れますように。
救いの女神様
END.
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