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お館様が、単行本を抱えた娘さんと共に退室する。


まだ明るい時間だからなのか、直近で大きな事件が起こっていないからか。お館様が柱合会議を終わらせたものの、“柱”のみんなはこの部屋に留まったままだった。
まずはお館様がざっと漫画に目を通すことになり、ただそれには多少なり時間が必要で。今後の話はまた後日でもいいと彼は言ったのだが、当然のように柱達は単行本の内容が気になっていて、「ここで待ってます」で全員意見が一致していた。

帰る気がない柱達に見送られ、それじゃあ少し席を外すよ、とお館様が穏やかに手を振り部屋を出て行ったその瞬間。
さっきまで頭を下げていた柱の皆さんが一斉にこちらを振り返って、その圧にびっくりして思わず肩が跳ねた。




「…明華ちゃん!! 改めて、はじめまして!!
知ってるかもしれないけど、恋柱の甘露寺蜜璃です!煉獄さんは私の師範なの!
お嫁さんが出来たなんて、私全然知らなかった〜!仲良くしてくれたら嬉しいわ!」


『あ……こちらこそ!よろしくね、蜜璃ちゃん』


「よォ女神様!何やらいろいろと知ってるみてえだが、当然俺様のことは知ってるんだろうな!?」


『えっと、宇髄さん…ですよね?』


「逆に、この中で知らない人っているの?」


『ううん、みんな知ってる。しのぶさんとは一度お会いしてるし、無一郎くん、義勇さん、伊黒さん、不死川さん、悲鳴嶼さん……だよね』




目をキラキラさせながら真っ先に突っ込んできた「蜜璃ちゃん」をはじめ、一方的に知っている柱の方々が気さくに声を掛けてくれる。
あまりの供給過多っぷりにオタクとして若干混乱しかけたけど、どうにか冷静を装って対応した。




「今度煉獄さんも一緒に、ゆっくりお茶でもしましょうね!
どこのお店が良いかしら!二人のお話をたくさん聞きたいの〜!!」


『き、期待に添えられるかな……。あ、もし良かったら伊黒さんも…』


「えっ!?」


「おいお前、ちょっと此方へ来い」




恋バナの気配にうずうずしていた蜜璃ちゃんが突如真っ赤になって固まり、代わりに伊黒さんが割って入ってくる。
そのまま腕を掴まれて離れたところに連行された。…あれ、早速失言したかもしれない。




「お前、俺と甘露寺について何か知っているのか?」


『ええっと…。一緒にご飯行ってるとか、文通してるとか…?』


「なっ……知り過ぎだ!おい、まさか煉獄も…!?」


『あ、はい…。気に留めてるかは分からないけど、知ってるかと……』


「………」




超至近距離で、かつ超小声で伊黒さんに耳打ちされる。蜜璃ちゃんと伊黒さんは両想いってことで私の中で勝手に決着がついてたけど、そうか、まだそこまで進展していないのか。
見る限り、現時点でも両片想いなのは確実だとは思うけども。

私というよりかは無駄に声が大きい杏寿郎に関係を知られたことに絶望したらしい伊黒さんは、青い顔をして十秒ほど黙り込んだ後、「絶対に煉獄に余計なことを喋らせるな」と言って私を解放した。




「なんだなんだ、いきなり内緒話か!?」


「…煩い。おい煉獄、嫁の言い付けはしっかり守れよ」


「? 勿論だ!」


「…無駄話してねェで、俺は早いところ上弦や鬼舞辻の話を聞きてェんだが……」


「嗚呼、それは皆同じ…。しかし、まだお館様が戻っておられぬ……」


「そうですね、私達だけで勝手に進めない方が良いと思います。私も、あの“漫画”にはとても興味があるのですけど…」




「今は歓談の時間にしましょう」と言ったしのぶさんがこちらに目を向ける。
視線が合うと、彼女はふわりと笑ってから近付いてきた。






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