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「おはよう」




朝っぱらから、なんて心臓に悪い目覚め方だ。




『……やっぱりわたし、向こうで寝た方が…』


「駄目だ。風邪を引く」


『(こっちの気も知らないで…)』




心の中で悪態をつく。

この人が来てから三日目の朝。さすがにそろそろ夢も覚めるんじゃないかと思ってるんだけど、今のところそんなことはないらしい。
こういうのって寝て起きたら何事もなかったかのように終わってるものじゃないんだろうか。それともまだ“期限”が来てないのか。
いてくれるのは嬉しいけど、あんまり長引くと夢で終わらせられなくなるから困るなあとも思う。いるなら永遠にいる、帰るならさっさと帰る。どっちかにしてほしい。
さすがに「自由に行き来できます」なんて都合の良いことは起こらないだろうし。


今日は休みだったから目覚ましかけずに寝ちゃったけど、今何時だろう。背中側から回っている腕から這いずり出るようにして手を伸ばす。
スマホのロック画面に表示された時間は「10:02」。煉獄さんがいたから普段より早めに寝たけど、二度寝した記憶があるしまあこんなものだろう。

目を擦りながら上半身だけ起こすと、寝転がったままこちらを見ている煉獄さんと目が合った。




『…どうしたの?』


「いや、別に。よく眠れたか?」


『うん、寝過ぎたかも……』




寝た時間の割に起きるのが遅い。まあ、寝ようと思えばもっと寝れるけど。
あくびをしていたら少し遅れて彼もしたので、うつったかなと思ったのと同時に可愛いと思った。思わず頭を撫でたらびくりとされたので、しまったと手を引っ込める。




『ご、ごめん』


「……嫌だったわけじゃない」




こちらへ寝返りを打った彼に腰に腕を回される。顔は隠れて見えなかったが、頬が少し赤いように見えた。
ぼんやりしていた頭が一気に覚醒する。…か、可愛すぎやしないか。




「あまり…こうやって、人の傍にいたことがないから。
君といると……その、言葉にはしづらいんだが、なんだか不思議な気分だ」




こちらに顔を寄せた煉獄さんが目を閉じる。その姿を見て、ふと思い返したのは彼の生い立ちだった。


お母さんは早くに病気で亡くなって、そのショックでお父さんも塞ぎ込んでしまって。
それでも彼は責務を果たすために炎柱として日々戦っている。幼い弟さんの面倒も見ながら。
私は「読者」だから、心の中の描写も漫画で見て知っている。


“俺も煉獄家の長男として 強くなる 強くあらねばならない”

“泣くな 杏寿郎”




『…辛かったら言ってね』


「!」


『どこまで力になれるか分からないけど、わたしにできることなら何だってするから』




この人はいつも明るく振る舞ってるけど、きっといろいろなものを抱え込んで生きてるんだろう。心の中ですら弱音を吐いたところを見たことがないけれど、それは多分、そうしないといけない環境で育ってきているからで。

せめて鬼のいないこの世界でくらいは気楽にしていて欲しい。この家で、私の前では遠慮なんかしてほしくない。
私が煉獄さんに何をしてあげられるかは分からないけど、やれることは全部やってあげたい。


しばらく黙って撫でられていた彼は、その後ふっと微笑んでから「ありがとう」と呟いた。







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