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『さて、ここに来て三日目なわけですが』




朝ご飯を食べながら作戦会議を開く。
内容は言わずもがな、「どうやったら帰れるのか」だ。




『何か思い出したことは?』


「残念ながら特にない」


『うーむ……』




こういう“トリップ”で王道なのが寝てる間に異世界に迷い込んだ、というのは前にも話した。ここ何日か寝て起きてを繰り返してるけど帰れていないということは、方法そのものが間違ってるのか、何か条件が揃わないといけないのか。

条件として考えられるのはやはり「期限」か。何日か経ったら何かが解除されて、そのタイミングで寝ると元に戻っているという。
ただそうだとすると待つしかないし、そうじゃなかったときのために他の可能性も考えておいた方がいい。

例えば映画のときみたいに、自分の首を斬ったら元に戻る…とか。実際に鬼滅の世界で起こったことだから有り得ないこともないと思うけど、試すことができないのが痛い。
ここが魘夢の作り出した夢の世界じゃない時点でシンプルに死ぬ可能性が高いから。それは困る。




『そうだ、現場検証行ってみようか。何かあるかも』


「うん?」


『ここのマンション、そんなに人通りないからさ。さっと行ってさっと見て、さっと帰って来れば大丈夫』




あの日煉獄さんが倒れていたという場所に行ってみたら何か手掛かりがあるかもしれない。もしくは何か思い出すかも。
集合住宅ではあるけど普段から人とすれ違うことなんてほとんどないし、すれ違ったとしても顔だけ隠せば大丈夫だと思う。ようはこの人が煉獄さんだとバレなければいい。
帽子も買ってきたし、こっちの服を着せればすれ違いざまにぱっと見で煉獄さんだなんて分からないだろう。そもそも煉獄さんがこの世界にいるなんて思う人はいないだろうし。

そうと決まれば早速行動に移そう。
買ってあった新品のジャケットを彼に羽織らせ、髪の毛をポニーテールにして帽子を被せる。一番目立つのが髪の毛だから、なるべく中に入れて見えないように。
もしも誰かが来たら帽子のつばで顔を隠すように伝えた。声も控えめで、できれば人前は避けて。「分かった」と言った彼は任務前みたいに真面目な顔をしていた。

鍵だけ持って外に出る。少し早歩きで、階段を使って家の前の通りを目指す。
他に足音は聞こえない。大丈夫そうだ。




『初めて会ったのはあのへんだったよね?』


「ああ。でも、俺が最初にいたのはもっとこっちだ」




マンションを出てすぐのところで出会ったからそのあたりで倒れていたのかと思いきや、私の腕を引っ張った煉獄さんは通りの先の方へ案内した。マンションから意外と距離がある。




「目が覚めたらこの辺りにいて、道を聞くために人を探していたら君に会った」


『うわ、結構うろうろしてた感じ…?よくぞ無事で…』


「そうだな。最初に君に会えて良かった」




煉獄さんがふわりと微笑む。

あの時間だともう明るかったし、鬼殺隊の格好のままうろついてたら間違いなく捕まっていたと思う。警察か、もしくは煉獄さんのことを知っている他の誰かか。
後者ならマシだけど前者だったらまずかった。まあ、後者だとしても後々通報される可能性は否めないけど。思いっきり武器持ってたし。

何か手掛かりはないかと周辺を見渡したけど、あいにくそれらしきものは見当たらなかった。
ただ道路があって、脇に木が生えてて、たまにゴミが落ちてるだけ。いつもと変わらない。




『ああ〜現場検証するならその日のうちにやっとくべきだった……ごめんね気が回らなくて……』


「君が謝る必要はない。お互い混乱していたんだ、無理はない」


『ここに来てみて、何か思い出すことはある?』


「うーむ…残念ながら……」




ぱっとしない顔をする彼はここに来ても特に何も思わなかったらしい。手掛かりなし、か。
あんまり長居するのは良くないし、とりあえず戻ろう。そう思った矢先に道路の曲がり角から車のエンジン音がしたので、彼をこっち側に引っ張る。




「…何だ今のは?」


『車。乗り物だよ。中に人がいて、あれで移動するの』




一応背は向けさせたけどさすがに車相手なら大丈夫か。周りに他の人がいないのを確認してさっさとマンションへ戻る。

鍵を開け、無事帰宅。しかし成果はなし。うーん。







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