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『この後買い物に行こうと思うんだけど』
家にあるもので用意したお昼ご飯を食べながら、向かいに座っていた煉獄さんにそう伝える。
今日は土曜日だから、いつものように午後は食材の買い出しに出掛けようとしていた。
行き先はすぐそこにあるスーパー。どうしようかな、とは思ったんだけど。
「そうか…。じゃあ、俺は留守番か……」
伝えるや否やあからさまにしょんぼりされてしまい、言ってもいいのか迷っていた言葉が口を衝いて出てくる。
『…一緒に来る?』
「! いいのか!?」
『まあ…近所だし、そんなにたくさん人いないし……』
迷いを含んだ語尾がだんだんと弱くなっていく。
不必要にこの人を外に連れ出すのはあんまり良くないだろう。
もちろんバレないように変装はさせるが、突然向こうに飛ばされる可能性がないわけではない。何かあったら対処に困る。
それは彼も分かっているから、「留守番」という単語が出てきたわけで。
ただ今のところ、寝ても駄目、何かを思い出すこともなし、数日待っても変わらずの状況。
こうなると買い出しの一時間程度で何かが起こる可能性はだいぶ低いんじゃないかと思えてくる。楽観的かもしれないが、現時点であまりにも何も起こらないので。
そして何より、そろそろ一人で知らない人の家に閉じこもっているのが彼には苦痛なんじゃないかと思えるのだ。
「一緒に行けるなら是非行ってみたいが、君の迷惑にはならないだろうか?」
『バレないようにだけ気を付けてもらえれば…あとは絶対はぐれないように…』
「分かった!気を付ける!」
“嬉しい”と分かりやすく顔に書いてある煉獄さんに、まだ不安は残っているものの頬が緩む。やっぱり家に一人でいるのは暇なのだろう。自宅じゃないから勝手も分からないし。
遊びに行くわけじゃないからそこまで楽しいことはないと思うけど、家で退屈しているよりかはいくらかマシだろう。
出掛けられると聞いてわくわくした様子の彼は、お皿にあったおにぎりの最後の一個を手に取った。
「あまり出歩くのは良くないと分かってるんだが、出来るならこの世界のことをもっと知りたいんだ。
君の生きているこの世界を、俺も見てみたい」
「きっともう、来ようと思っても来られないだろうから」。そう言って煉獄さんが目を細める。
頭では駄目だと分かっていても、もっといろんなところへ連れて行ってあげたいと――この世界には存在しない赤と黄色の瞳を見ながら、ふとそんなことを思ってしまった。
――
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