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「楽しみだ!」


『そんなに楽しいとこじゃないと思うけどね…』




絶対バレないようにとマスクまでさせた煉獄さんが隣をるんるんと歩いている。


普段なら買い出し程度じゃ化粧なんかしないし服も適当だけど、今日は彼が一緒だったのでなんとなく身なりを整えてきた。持ち物はカバンと財布と家の鍵と、万が一を考えて煉獄さんの羽織。さすがに刀は目立つから持って来れなかった。

すぐ隣にいる彼の姿を逐一確認しながら徒歩5分の道を歩く。こんな単純な道で迷子にはならないと思うけど、一度でも見失ったら戻って来れないだろうから気を付けなくてはいけない。私も「煉獄さんを探してる」なんて他の人には言えないし。


道中特に誰ともすれ違うことなく目的地に着いて、案の定自動ドアの前で固まった煉獄さんを引っ張って中に入る。この時代に自動ドアに感心する人はいない。
買い物かごをカートにセットして、もごもごと何かを言いたげな煉獄さんと一緒に野菜から見て回った。




「なるほど、これに買うものを入れるのか!」


『うん。気になるものあったら言ってね』


「たくさんありすぎてよく分からない!しかしここは随分と冷えるな」


『食べ物売ってるところは寒いとこが多いから』




都会の大きいスーパーじゃないから客はまばらだけど、ゼロではないのでなるべく人と距離を取るようにして歩く。大声は出さないように言ってあったから彼にしてはかなり声のボリュームが控えめだった。多分この煉獄さんはレアである。

店内が寒いことが気になったのか、彼が「上着を貸そうか」と言い出したので慣れてるから大丈夫だよとやんわり断った。気遣いのできる男は違うな。普段あんまり買わないけど、今日はお肉いっぱい買っちゃおう。




「これ…」


『ん?ああ、この前買ったお弁当?食べたい?』


「いや、…これで500円か…」




もうすぐ会計というところで煉獄さんが何やら反応を示したので目を向けたら、彼が来た日に昼食として買ったお弁当を手に取っていた。また食べたいのかと思いきや、どうやら気になったのは値段の方だったようで。
そうか、物価も違うんだとこのときに気が付いた。今と昔では使ってるお金の種類も違うのだろう。百年前にどんなお金が使われていたのかは知らないけど。
「唐揚げ弁当500円」が彼の中で基準になったらしく、その後は周りの値札を見ながらきょろきょろしていた。




「お会計、6328円です」


『はい』


「ポイントカードはありますか?」


『はい』


「……?」




人のいない列を選んで会計を済ませる。レジの人に顔が見られないように明後日の方を向いて横に立った煉獄さんが、時々不思議そうに私と店員さんのやり取りをちらちらと見ていた。バーコードとかクレジットカードとか、知らないものがさぞかし多いことだろう。
会計が終わった後に小声で「変わった硬貨だな」と言われたので、「これ現金じゃないよ」と小声で返す。仕組みを話し始めたら長くなりそうなので続きは家に帰ってからかな。

袋に買ったものを詰めて手に持とうとしたら、「俺が持つ」と言った煉獄さんに袋をすべて奪われた。客人に荷物持ちをさせるのは気が引けたけど、彼が嬉しそうににこにこしていたのでその厚意に甘えた。




『ほんのちょっとだったけど、異世界はどうだった?』


「楽しかった!少し寒かったが、食物が腐らないように店全体が冷えてるのは画期的だな。金の計算も自動ですぐに終わって…ああ、扉も自動だったな、開くのも閉まるのも……」




帰宅して、さすが未来だと興奮する彼を微笑ましく見守る。スーパーに行って帰ってきただけだったけど喜んでもらえて良かった。
他の人と接触する機会はあったけど特に突っ込まれるようなこともなかったから、変装もこれで大丈夫そうだ。どこでも気軽に出掛けられるとまではいかないけど、大きな一歩だったと思う。




『(…でもやっぱり、そうなるとどっか遊びに行きたくなっちゃうな)』




冷蔵庫に買った牛乳をしまってから、ふう、と軽く息を吐いた。




「中藤?」


『…あ、何?』


「借りていた帽子と上着はどこに置いておこうか?」


『ああ、じゃあそこに引っ掛けとこっか』




もっと遠くへ遊びに行けたら、どんなに楽しいだろう。
一緒に遊んだ思い出を作れたら、どんなに幸せだろう。

考えてはいけないことが頭に浮かんでは消える。良くない上に、そんなことしてる場合ではないだろうに。


手渡しで受け取ったジャケットから、新品のそれから香ったものとは違う匂いが鼻を掠めた。






みと


(ただ居れるだけで、幸せだというのに)




END.





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