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「ここが…」


『桜新町……初めて来た』




駅を出て、きょろきょろと周辺を確認する。


どうにか大きな事故もなく目的地へ辿り着くことができた。途中で何回か私の心臓が止まりかけたけども。
原作読んでるときから思ってたけど、人との距離感が近い人なので傍にいるといちいち心臓に悪い。私にこうってことはきっと誰にでもこうなんだろうな。罪な人だ。


辺りを見渡したが特にこれといった特徴はなかった。人通りが全くないわけでもなく、かと言って東京駅のように賑わっているわけでもなく。
駅前の大通りには家が立ち並び、その中にコンビニや飲食店がぽつぽつとある。見るからにいたって“普通”な駅だった。




『住所からしてこの辺のはずだけど…とりあえず、ぐるっとしてみようか』


「うむ」




実際に杏寿郎の家がこの町のどこにあるかまでは分からないので、地図を開いたまま町の端に向かって歩を進める。


予想はしていたけど、駅から離れるごとに徐々に住宅地に変わってきた。
一軒家やアパートの中にときどきスーパーや公園がある程度で、雰囲気はうちの周りとほとんど変わらない。さすがに東京だから人はこっちの方が多いのだろうけど。
ここが杏寿郎の生まれた町か、とは正直あまりならなかった。多分本人もそう感じていると思う。

漫画で見た彼のお屋敷があった場所はこんなに開発されていなくて、もっとのどかなイメージだった。煉獄家が特殊な家だったとしてもこんなにびっしりと住宅が立ち並ぶ中にあったわけではないと思う。
ここが百年前の東京だったらあの原作の雰囲気を味わうことができたのだろうか。


スマホ画面を見ながら、はぐれないようにときどき隣にいる彼のことを見上げた。




『あんまり楽しそうなものはないねえ…』


「ああ…この辺りを歩くのは此処に住んでいる人だけだろうな」




あまり変わり映えしない景色の中をただ二人で並んで歩く。
静かな住宅街。杏寿郎の言った通り、自分が住んでいるか知り合いの家に遊びに来たくらいしかこの場所へ来る理由が思い浮かばない。これじゃあただ家にいるときと退屈の度合いはそんなに変わらないかもしれないと思う程度には何もなかった。


線路を挟んで町の半分ほどを散策した後、「そろそろお昼にしようか」と声を掛けて駅前の大通りにあったお店に入る。




「駄目だ…家どころか、街並みすら全然分からない…」


『まだあと半分あるよ。もしかしたら向こう側だったのかも』




見覚えのある場所が見付けられず気を落とした様子の彼を何とか元気づけようとするけど、「そうだな!」と笑って答えた彼はどこか無理をしていそうだった。





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