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「なるほど、そういうものか」




夕餉に出されたカレーライスを頬張りながら明華の話を聞く。


思い切って外に出たのが昨日。金も時間も手間も掛けさせたのに現状は何も変わらず、今日も明華はいつものように仕事に出掛けて行った。
日中は相変わらずやることがなく、鈍っているであろう体を少しでもいいから鍛えようとひたすらに腕立てと腹筋と屈伸運動。普段なら負荷をかけて行っているがこの部屋にはそういうものがない。普通の女の子の家だから当たり前だが。
物足りない分は回数と時間で補った。

うるさくしないようにとは気を付けていたがうっかり汗で床を汚してしまい、それについて彼女に謝ったら「好きに使っていいよ」と手拭いを何枚か渡された。何から何まで世話になりっぱなしだ。
しかし嫌な顔ひとつ見せず、それどころか嬉しそうに俺と話をしてくれる明華。好きな食べ物の話は昨日のうちにしていたから、今日は明華の暮らしについて聞いていた。




『わたしももういい歳だから、実家にいると気まずくって…』


「それで自立して、此処で一人で暮らしているのか。立派だな!」




以前から両親と住んでいないことを疑問に思っていたが、どうやら明華は自分から家を出たそうで。ここからそんなに遠い場所ではないが顔を合わせるのは数ヶ月に一度らしい。
話しづらい事情でもあったらどうしようかと思ったが、そんなことはなかったので安心した。健在なら何よりだ。
顔も知らないが、こんなによくできた娘さんがいるなら御両親もきっと素敵な人なんだろう。勝手に想像しながらもうだいぶ使い慣れたスプーンを口に運ぶ。




「しかし、君が一人なのを親御さんは心配しないか?」


『うん…してると思うよ。特にわたしは一人娘だから。お父さんが寂しがってるってお母さん言ってたし』


「そうか…そうだろうな。俺が邪魔していることを知ったらどうなることやら」


『ふふ、ひっくり返っちゃうかもね』




友達すら呼んだことないもん。明華が笑ってそう答える。

それを思うと俺を家に連れ込んだのは相当勇気が要ることだっただろう。友達どころか知らない人間で、しかも男なのだから。いろいろと気苦労をかけて申し訳ない。
今更だが親御さんに俺が居ることを伝えなくて大丈夫なのか聞いてみると、「うん」と明華は間髪入れずに頷いた。




『言う気はないよ。うちの親なら話せば分かってくれるかもしれないけど、誰かに知られた時点でどこから情報が漏れるか分からないから。杏寿郎のことはわたしが一人で何とかする』




仮にまだしばらくここにいることになっても、仕送りが必要なほどお金に困ってるわけじゃないから。もし相談することになるとすれば、それは相当困ってどうしようもなくなったときだけ。

真剣な顔をしてそう言ったかと思えば、すぐ後に彼女はふっと笑って、「…なんて、本音を言えば半分はただの我儘だけど」と息を吐いた。




「我儘?」


『…杏寿郎のこと、誰にも取られたくなくて』




さっきまで此方を見ていた視線が、その言葉とともに床の方へと外れる。







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