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『美味しい?』
「美味すぎる……」
『良かった〜』
やや抑え気味の声で感想を伝える。
注文は明華に任せきりだったが、どれもこれも美味くて驚いた。形や柔らかさが肉によって異なるがとにかく全部美味い。しかもどんなに食べても同じ値段とは。
俺の居る世界にもこんな店があれば良かったのに、そうしたらたくさん通うのに。ぼやいたら、「レンが通ったらお店潰れちゃうかもよ」と笑われた。やっぱり明華は俺が大食いなのを知っている。
肉だけじゃなくて野菜も食べようね、と言われてときどき野菜を挟んだ。海鮮もあったので海老も頼んでみた。もちろん米もおかわりした。
ガツガツ食べる俺のことを明華が嬉しそうに眺めて、「急いで食べる必要はないからね」と穏やかに言う。食べ放題と言っても量を食べることを考えなくていい。食べたい分を無理のない範囲で、早食いは身体に良くないからと。
気遣ってくれるのを有難く思いながら、焼けた肉を口に放り込む。美味い。いつもなら声に出しているところだが今は外だから駄目だ。
途中で明華が“焼く係”になってしまっていることに気付き、慌てて交代する。君が腹一杯食ってくれないと俺が困る。
最後に食後のデザートだというアイスクリームが出され、それを平らげたところで贅沢な夕餉は幕を閉じた。
『うわー…レシート長っ…』
「何が書いてあるんだ?」
『さっき食べたものの一覧表。ふふ、何人前だろうね』
料金を払って、細長い紙を受け取って店を出る。明華が買い物のときに受け取っているのと同じ紙だ。
注文した料理の一覧が載っているらしい。食べ放題じゃなかったらさぞかし大変なことになっているのだろう。
「ごちそうさまでした!!」
『はーい。美味しかったね』
「ああ、堪能させてもらった!」
再び明華の腕に掴まって帰りのバスの乗り場に向かう。このためだけに運賃を出してもらうことになったのも申し訳ないと思ったが、ご機嫌な彼女を前に謝りはしなかった。代わりに「ありがとう」と礼を伝える。
『どう、あのお店気に入った?』
「ああ!とても!」
『良かった。レンなら喜んでくれるかなって思ったから』
「うむ、その読みは的中だ。しかし、やはり俺ばかり好みが知られていて悔しいな」
『別に悔しがる必要ないでしょ』
「だが、俺も君を喜ばせたいし……」
『…え』
二人並んでバスに揺られる。夜もそれなりに深いからか、乗客はまばらだった。
彼女が喜んでくれそうなことは何となく分かってきたが、どの程度まで良くてどこからが嫌がられるのかはまだ分かっていない。
あまりにも近付いたら嫌がられるだろうし、頻度が多過ぎても煩わしいだろうし。
距離は順調に縮められていると思うから、この調子で反応を見ながら地道に探っていくしかないか。
「…これは嫌か?」
『え…。嫌じゃない…けど……』
二人して座っている状態でできることは限られていて、とりあえず明華の肩に寄り掛かってみる。
なんだか俺が甘えているみたいな体勢で自分で恥ずかしくなったが、ちらりと見た明華は赤くなって縮こまっていたので照れてるのだと認識した。
「ふふ、君も分かりやすくて助かる」
『……もう、…』
「…嗚呼、でももうすぐ降りないといけないな。残念だ」
車内で流れた案内の声が目的地の名前を告げて、誰かが下車を知らせるための釦を押す。あと数分で着くだろう。
体を起こしたら、思い切り明華に顔を背けられてしまった。少し調子に乗りすぎたか。
バスが止まり黙ったまま彼女が立ち上がったので、後れを取らないようにぴったりその背中に着いていく。
『…そうだ、明日早起きしてもらいたいんだけど』
「ん?何かあるのか?」
『ちょっと試したいことがあって』
すっかり暗くなった夜の道を並んで歩く。もう明華は怒っていなさそうだった。
言い出したことについて彼女は詳しい内容に触れなかったが、その口振りから察する。…俺を帰らせようとしているな。
明華のことだ、迷惑だから帰ってほしいってわけじゃないだろうが。俺は来週までは残る気でいるんだがな。
でも断るわけにもいかない。分かったと短く返し、明華からよろしくねと言われる。
「(…せめて今日の礼くらいさせて欲しいものだ)」
そのためにもう少し居座りたいと言ったらまた困られるから、口には出さないけども。
礼なら不要ということなんだろうができれば受け取って欲しいところだ。
細い腕を手繰り寄せてその身体のすぐ傍まで近付く。
この子の隣に居ることが随分身に馴染んだなあと、横にある気配にそう思った。
伝わる体温
(…明日、別れるかもしれないのか)
END.
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