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『ただいま』




仕事が終わり、家のドアを開ける。本日四度目。
幸い急ぎの作業もなかったので日中は帰る方法について考えていたが、そう簡単に思いつくこともなく。ヤケに近いけど、「家のドア開けたら異世界」みたいなのを片っ端から試してみるとか、「どこでもいいから縁のある場所は全部回ってみようツアー」を開催するとか。
万が一ってこともあるし、どんなに馬鹿馬鹿しいと思う方法でもとりあえず試してみるっていうのが今できることかなあとぐるぐる考えた。ダメだった方法はノートにでもまとめて一覧にして、やってないことはどんどん試していく感じで。




『(…、あれ?)』




シンと静まった室内に違和感を覚える。ここ最近習慣になりつつあった“出迎え”の気配がない。そういえば玄関の電気も点いていない。
いつもだったら鍵を開ける音に反応して走ってくるか、それよりも前に待ち構えているのに。


…ドクン。
大きく心臓が波打つ。――もしかして、いない?


バスに乗ったというメッセージには既読が付いていた。返事も来た。それからまだ30分も経っていない。
足元を見る。彼がもともと履いてきた草履はそのままそこにあった。…いや、ワープするみたいに移動したなら履いてる暇なんてないか。
妙に冷静にそう考えたけど、そんな自分はハリボテであることは言うまでもない。

ドクドクと脈打つ胸を押さえる。“その時”が突然来るかもしれないことくらい初日から分かっていたことだ。今更驚くものでもない。
それなのにどうして、こんなに動悸がするのだろう。帰れたのなら私も望んでいた結果じゃないか。頭では分かっていた。


電気を点け、靴を脱いで静かに家に上がる。まだ誰の気配もない。リビングの明かりも点いていない。
ゆっくりゆっくり、歩いて自分の部屋へと向かう。廊下から漏れた光を頼りに中を覗き込んだ。




『(……なんだ、…寝てるだけか……)』




その場にへたり込みそうになった。窓際にあるベッドの上に、杏寿郎が横になって布団を被っていた。
鳴り止まない心臓がうるさい。余計な物音を立てないうちに出ようと反転してリビングに向かう。




『(……お風呂入って来よう)』




カバンを置き、深く息を吐き出す。…全然ダメだな、私。全然ダメだ。
一人自嘲してから風呂場へと向かう。もうとっくに、夢で終わらせることなんて出来なくなっていた。







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