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『あっ、そうだ』


「ん?」


『血鬼術なら日に当たればいいんじゃない?ほら、確かしのぶさんのとこで』


「…俺を帰らせようとするのはなしだと言ったはずだぞ」




唐突に思い付いたことを口に出したらむっとされた。


そうだ、もし血鬼術なら日光が効くかもしれない。鬼がここにいるわけじゃないから首を斬ることはできないけど、日を浴びることはできる。血鬼術にかかった隊士は薬を飲んで日を浴びれば症状が良くなると作品内では言っていた。

ただそれならこの前杏寿郎の家を探していた日にだいぶ外にいたから、“正解”であるならあのときに何か起きている気がする。…いやでも、そんな一日くらいじゃダメなのかもしれないし。

そう思ったのも束の間、「病気みたいな症状が出ているわけじゃないから効かない気がするぞ」と杏寿郎に言われて確かになと納得してしまった。




「まあ…君が望むなら、ただの日向ぼっこなら付き合うが」


『じゃああっちでおやつにしよ』




他にやることもないし、と立ち上がる。やっぱり杏寿郎は優しい。


個包装のクッキーをいくつか皿に盛って日の当たる窓際へと移動する。
直射日光じゃ眩しいし暑いから薄いカーテンだけ閉めて、二人で並んで床に座りこんだ。




『ぽかぽかしていい感じ』


「そうだな」


『夏じゃないけど、ずっと当たってたら焼けちゃうかなー…』


「焼けるだろうな。そうなる前に退散しよう」




気温は暑くもなく、寒くもなく。穏やかな日差しの下でゆったりと時間が流れる。
…これは眠くなるやつだな。クッキーを片手にそう考えてたら、杏寿郎側の肩にずしりと重みを感じた。




『…それ、あんまり誰にでもやらないでよ』


「ん?明華にするのが初めてだから、明華にしかしたことはない」


『…それならいいけど』




ハネた髪の毛がふわりと顔に当たる。

この前バスに乗ってる間にもやられた。小さい子供が親にやってるならまだしも、男女でやったらどうやっても恋人のそれでしょうに。よく分からずにやってるんだろうけど。
私が喜んでるのが分かるからやってくるんだろうな。サービス精神が旺盛過ぎる。大して知らない人間相手なんだから、もう少し警戒してくれてもいいのに。


頬が熱いのは日が当たってるからということにして、半分残っていたクッキーを口の中に放り込んだ。




「…平和だなあ」


『そうだねえ』


「いつでも此処に来られるようになれば良いのにな」


『…いつでも?』


「ああ……そうしたら、何の心配もなく君と居られるのに」




ぎゅう、と彼がもたれかかったまま私の腕を抱き寄せる。
そんな都合の良い世界を、彼も思い描いてくれたことが嬉しかった。




『…ありがとう、杏寿郎』


「ん…」


『眠いなら部屋でお昼寝する?』


「昼寝か…。はは、どこまでもだらけてしまうな」




「でもそうしようか」と彼は笑った。こっちにいる間の特権だ、と。
目を細める彼の頭を軽く撫でる。こんな時間がずっと続けばいいのに。


まだ明るい部屋のベッドで寝息を立て始めた彼の気配を、背中越しにじっと感じていた。









(貴方も、そう思ってくれる?)




END.







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