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『…あ、あの?』
「ん?」
『さ、さすがにこれはちょっと…』
状況を把握して脳が警鐘を鳴らす。
――近い近い近い!
簡単に言えば、彼に上から“乗っかられて”いた。もちろん全体重で潰されたわけじゃないけど重みで身動きが取れない。腕を完全にどかす前に乗っかられたので、両腕が彼の肩で押さえつけられてしまった。
おそらく寝っ転がった状態のまま抱き締めようとしてくれたんだと思うが、絵面が結構まずい。杏寿郎に全くその気はないだろうけど押し倒されてるようなもんでしょこれは。
重力があるせいか彼の顔が私の肩口に埋まる。足を着いたであろうベッドがギシリと音を立てて沈んだ。
抜け出すにもこの体格差では無理がある。何とか動かせそうな手ですぐ横にあった彼の頬を押し返すと、杏寿郎はきょとんとした顔をしてむくりと体を起こした。
「……、済まなかった」
『い、いえ…』
「先に洗面所を借りる。すぐに終わらせる」
『あ、ゆっくりでいい、よ……』
そのままベッドから降りるとすたすたと部屋を出て行ってしまった。私が言い終わるよりも早かった。
バクバクしている胸を押さえながら自分も体を起こす。…何のサービスだったんだろうか、今のは。おかげで涙は完全に引っ込んだけど。
しばらくしてから「使い終わった、ありがとう」と声が聞こえたので私も洗面所に向かう。
鏡に映った私の顔は赤かったけど、幸い目が腫れているような様子はなかった。さっさと顔を洗い終えてパジャマのままリビングに向かう。
『杏寿郎、朝ごは……えっ?あれ!?落ち込んでる!?』
「嫌がることをして済まない……」
『えっ!?あ、いや!さっきのはそんな、嫌だったとかじゃなくて…!!』
朝ごはんのパンを選んでもらおうと思ったら、ソファーに丸くなって転がっている杏寿郎の姿が目に入った。デジャヴ。
やっぱり口元は笑ってるけど目がどこを見てるんだか分からない。慌てて駆け寄って前回と同じように膝をつく。
『あれはその、恥ずかしかっただけだから!杏寿郎的にも良くないことだったと思うし!!』
「俺は別に、嫌々やってるわけでは……」
『…と、とにかく、わたしは嫌で押し退けたわけじゃないからね!』
「嫌いになってないか……?」
『なってない!全然なってないよ!』
この前男の人が苦手だと言ったのが響いているのだろうか。だとしたら申し訳ない。杏寿郎は条件には当てはまるかもしれないけど例外で対象外なのに。
全力で否定すると、ぱあっと顔を明るくした彼が勢いよく飛び起きた。
「そうか!!良かった!!」
『うわっ』
そのままぎゅっと抱き着いてくる。勢いが良かったので体がぐらついた。
私も大概だけど、彼も随分と分かりやすいよなあ。私に嫌われていないことを喜んでくれる彼の背中に腕を回す。
『…かわいい』
「!」
思わず小さく漏れた声は彼の耳に届いたようで。ぴくりとその身体が揺れる。
また否定されるかと思ったが、彼は「君には負ける」と一言呟いて抱き締める力を少し強めた。
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