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「もう、めっきり素振りすらしていないな…」
昼食を食べてからしばらく、お腹が落ち着いた頃に彼が部屋の隅に目をやりながらそう零した。
『あー…刀のこと?家の中じゃ振れないかな?』
「だ、駄目だ!もし君の大事なものを傷付けでもしたら…」
『この部屋ならいけるかもよ?やってみようよ』
きっと日輪刀を見てふと思っただけで、今すぐ素振りがしたいわけじゃないんだろうけど。せっかくの機会だからとりあえず試してみようと杏寿郎を促す。一人のときに試すのは気が引けるだろうし。
この家だとリビングが一番天井が高いからやるならこの部屋だ。思い切り刀を振れる面積があるかと言われると難しいけども。
振りかぶるなら少なくともテーブルは横に退けないとダメそうだ。
最初は“まずいことを言ってしまった”みたいな顔をしていた杏寿郎だったが、私が「試すくらい平気だよ」と言うと「じゃあ危ないから離れていてくれ」と言って鞘に仕舞われた刀を手にする。
そういえば刀身はまだ見たことがなかった。触っちゃいけないと思ってたから近付かないようにしてたし、特に話題にも出さなかった。
日輪刀どころか刀そのものも見たことがない。実物はどんな感じなんだろう。
ドキドキしながら彼の様子を見守る。
ゆっくりと手を掛けた杏寿郎はそのままゆっくり刀を抜き、周りを見渡しながらその角度を変える。
赤い模様の入った美しい刀が時折陽の光で輝いた。――あれが、杏寿郎の日輪刀。たくさんの鬼の首を斬ってきた刀。
間違いなく凶器だし下手に触ったら大怪我するだろうけど、不思議ともっと近くで見たくなる。
『あー…杏寿郎、背が高いから天井当たっちゃうね。ちょっと斜めにしてもダメかな?』
「いや、やっぱり危ないからやめておく。ありがとう!」
『そう?力になれなくてごめんね。……はー、やっぱりかっこいいねえ』
「そ、そうか?」
キン、と彼が刀を仕舞い直した。最後まで動作が滑らかでかっこいい。私がやったら指が3本くらいなくなりそう。
彼の立ち振る舞いも相まってとにかく何もかもが美しくて溜息しか出ない。これが戦場で、隊服を着て炎柱の羽織がなびいてたら卒倒ものだろうな。
でもそんなことを言えるのはこの世界に鬼がいないからで、彼らは別にかっこよさを求めて戦っているわけではなくて。部外者だからこそ呑気に感想を言えるんだなと言った後に気が付いて、もしかして気を悪くしたかなと思ったけどパーカー姿の杏寿郎は照れたように笑っただけだった。
『こっちだとね、鬼殺隊の服とか柱の羽織とか、似たようなのを作って真似して着ることがあるんだ』
「ふむ、そうなのか。演劇みたいなものだろうか……良かったら着てみるか?」
『えっ』
「明華には大きいだろうが、ここには“本物”があるぞ?」
「刀は危ないから貸せないが」と杏寿郎が笑う。予想外の流れになってしまった。
戸惑っている暇もなく、服を取ってくる!と言って彼は私を置いて部屋まで走って行ってしまう。引き留めるタイミングもなかった。
……え、本気ですか?
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