1
ついにこの日がやって来た。
『(やっと落ち着いた…)』
平日の朝、通勤ラッシュを過ぎたくらいの時間を狙って電車で移動する。
作戦通り人の少ない車両に乗り込むことができた私達は、目立たなそうな端の席に並んで腰掛けた。
今日は朝からずっとバタバタしていた。いや、それは主に私だけなんだけども。
普段のオタクイベントよりもずっと気合いを入れてきた。昨日選んだお気に入りの服を着て、滅多に巻かない髪もアイロンで念入りに巻いて、化粧もいつもの100倍は丁寧にやって。
待ちに待った――とは言えない事情があるから正直今の今まで内心複雑だったけど、いざ“その時”が来ると胸が高鳴ってしまうのは仕方のないことのようで。
「おお…!!此処が!」
『久しぶりに来た……』
入り口の時点ですでに華やかなその場所は、多くの人の心を掴んで離さない。
有休を使って、それなりの金額のお金を用意してまで来たかった“遊園地”。
いつぶりに来ただろう。最後に来たのが何年前なのか分からないくらい前だ。数年レベルの話ではない。
興味のある人ならちょくちょく来るんだろうけど、あいにく私はそこまで興味がなくて。来たら来たで楽しいんだけどなかなか来る機会が訪れない。
「行きたいなあ」から「よし行こう」になるまでだいぶ時間の掛かる場所だ。旅行に行くときの感覚に似ている。
そんなそこまで興味のない遊園地になぜわざわざ来たかったのかなんて、そんなのはもちろんこの人がいたからに決まってる。
「昨日見た写真と同じだ!でも少し飾り付けが違うような…」
『季節ごとに変えてるんだと思うよ』
「なるほど!あ、明華、あっちには花が咲いてるぞ!」
『ふふ、そうね』
今日は特に人が多い場所だからと、がっちり私の左腕をホールドしている杏寿郎。大声が出せない代わりなのか腕を引っ張られて視線を誘導される。
入場ゲートの前に大きな花壇があり、その綺麗な景色の前で家族連れが記念写真を撮っていた。
「あれはスマホか?」
『うん、写真撮ってるね。ほら、こうやって…』
カバンからスマホを取り出してカメラを起動する。そういえば見せたことなかったっけ。
適当に人の居ない場所に向けてシャッターを切り、撮れた写真を杏寿郎に見せる。覗き込んだ彼の顔はキラキラと輝いていた。
「明華、俺がそこで写真を撮ってやろう!」
『え?あー…うん、じゃあお願いしようかな』
さっきの家族連れのお父さんが写真係になっていたのを見たせいなのか、ただ写真を撮ってみたいだけなのか。目前にそびえ立つ大きな可愛らしいゲートを指さして杏寿郎が言う。
離れることになるからちょっとだけ迷ったけど、視界に入っていれば大丈夫だろうと思いカメラを起動したスマホを杏寿郎に渡した。平日だからか、この辺にいる人はまばらだし。
お互いが目に入る距離を保ったまま適度に離れて、無難にピースをして写真を撮ってもらう。
「明華!撮れてるか!?」
『確認するね』
戻ってきた杏寿郎からスマホを受け取って写真を見る。自分のスマホの中に他人に撮ってもらった自分の写真があるのは新鮮だった。
何枚か似たような写真が並んでいて、「撮れてるよ」と言いながら杏寿郎に見せる。なんだか彼は随分と嬉しそうだった。
『本当はレンの写真もいっぱい撮りたいんだけどね…。“証拠”になっちゃうかなって思って、撮れてないの』
「そうだったのか?…確かに、手元に残るならこれ以上ない証拠かもな」
「残念だ」と彼が言う。本当にそう思う。
許されるのなら、すぐにでも連写して待ち受けに設定してたのに。データがいっぱいになるくらい毎日たくさん撮ってたのに。
顔が写ってなければ平気かなあなんてどうにか抜け道を探そうとするけど、やっぱり万が一って思うと怖くて。最近だとガラスとか金属とかの反射でも顔バレするっていうから。
遊園地なんて写真を撮るには絶好の場所なんだけどね。
家族連れが園内に入っていくのを見送った後、私達もチケットを手に持ってスタッフさんの居る方へ向かう。
「行ってらっしゃいませ」と元気な笑顔と挨拶を貰ってから、先にゲートを抜けた杏寿郎の横に並んだ。
back