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「だいぶ暗くなってきたな」
園内の街灯を見上げながら、隣を歩いていた杏寿郎が呟く。
予定はなかなか順調だった。
道中のアトラクションはほとんど制覇した。小さい頃に乗った記憶のあるものから、いつもは長蛇の列で見逃してきた人気の乗り物、入ったことのなかったお化け屋敷まで。
杏寿郎と一緒だと不思議と何でも経験してみたくなった。この一回にすべてを懸けていたからかもしれない。
苦手なドッキリ系のお化け屋敷でも、彼と一緒なら楽しかった。
唯一残念だったのはジェットコースターに乗れなかったこと。杏寿郎の帽子が飛ばされる可能性があることと、落下のときに写真を撮られるシステムがあったことが主な理由。
私は絶叫系が苦手だから乗らなくても良かったのだけど、杏寿郎はもしかしたら好きかもしれないと思って。元の世界にはない乗り物だろうから本人が希望するなら乗らせてあげたかった。
でもさすがに帽子が飛んだらシャレにならないので、本日はスキップ。
見たかったパレードも見ることができた。最前列を陣取ることはできなかったけど、私の身長でも十分楽しめる位置だった。
まるで御伽噺の世界のような華やかなショー。ときどき写真を撮ったけど、今日は目に焼き付けることを優先した。
そうして楽しい時間を過ごしているうちに、だんだんと外は暗くなってきて。
可愛い形をしたライトが明るく光り始めた中、気持ちは逆に沈んでいく。
それでも表には出したくなくて、今日の最後の回のパレードを見るべく張り切って杏寿郎の腕を引っ張った。
「おお…!」
暗い夜を最大限に活かす、イルミネーションをふんだんに使ったナイトパレード。昼間とはまた違った華やかさだ。
キラキラした世界が今この時だけ他のことを忘れさせてくれる。…このままずっと、ここで見ていられたらいいのに。
杏寿郎が感嘆の声を漏らしたのが聞こえて、それからしばらくは彼の楽しそうな横顔を眺めていた。
徐々に遠ざかっていく音楽を聞きながら時計を見る。お土産を見る時間、電車に乗る時間、帰ってお風呂に入る時間。
明日は仕事。いつまでも夢の国に居られるわけじゃない。そろそろ現実を見なくてはならない時が迫っている。
杏寿郎も分かっていたのか、もう「次は何に乗るんだ?」とは聞いてこなかった。
『レン。最後にね、あれに乗りたいの』
指さした方向を杏寿郎が振り返る。一際大きくて目立っていたから、きっと目に入るたびに気になっていただろう。
「行こう」と言って笑った彼と並んで、人の減ってきた園内を歩き始めた。
――
近くで見ると大きいな、と杏寿郎が言った。
『夜の方が眺めが良いと思ったから、これは最後に乗ろうって決めてて』
おそらく同じことを考えているであろう、他のお客さんが作っていた列の後ろに並ぶ。
ジェットコースターと並んで遊園地の象徴とも言える乗り物、観覧車。
ここにあるやつは夜景が綺麗だと評判で、大きさもそれなりにあるから一周するまでゆったりと過ごせる。忙しなく終わるのもあれだから最後にこれを持ってくるのがちょうど良いんじゃないかと考えていた。
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