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「おかえり!」
『あ、うん…ただいま。唐揚げ弁当にしちゃったんだけど大丈夫かな?』
「からあげ?」
『えーっと……鶏肉の揚げ物なんだけど…』
近所のスーパーにダッシュして、取り急ぎお昼のお弁当を買ってくる。
鍵を開けたらすぐに玄関まで煉獄さんが走ってきたので驚いてしまった。
一人暮らしの身で「おかえり」を聞くことになるとは。しかもこの人の声で。
顔には出さないように堪えたけど、内心はだいぶお祭り騒ぎである。
普段はなるべく自炊しているからお弁当を買うなんて久しぶりだった。リビングに戻り袋から箱を取り出す私の手元をじっと見ながら、煉獄さんが行儀良く椅子に座って待っている。
なんだそれ、可愛い。座っているだけで可愛い。もう存在が可愛い。
『もし良ければだけど、焼き芋も買ってきたの。煉獄さんは薩摩芋が好きだって本で見たんだけど…』
「ああ、その通りだ!そんなことまで知られていようとは」
『良かったらどうぞ』
スーパーの隅っこで売られていた焼き芋を、煉獄さんのお弁当の横に袋ごと置く。その場で焼いているやつだからまだ温かい。
わざわざ買ったことがないので味がどうなのかは分からないが、少なくとも不味くはない…と思う。まあ、いらなかったら私が後で食べればいい。
「…君の分は?」
『わたし?わたしはお弁当あるからいいよ。あ、お弁当も足りなかったら分けるから言ってね』
飲み物も準備して、さあいただきますというときに煉獄さんが首を傾げた。焼き芋がひとつしかないことに疑問を持ったらしい。
焼き芋は好きだけど、お弁当が一人前あるからそんなにたくさん食べられない。そもそも煉獄さんにあげようと思って買ってきただけだし。私一人だったら買っていない。
だから気にしないで食べてね、と言ったら「そうか…」と彼が呟いた。
「全部君の金なのに、申し訳ない」
『わたしが好きでやってるんだからいいの。遠慮なんかしないで!』
「…ありがとう。芋は後で分けるから、君も一緒に食べよう」
「二人で食べた方が美味しい」と彼が笑う。漫画を読んでいた頃の、“太陽みたいな人”というイメージそのままだった。
登場時はちょっと怖そうで話が通じなさそうに描かれていたけど、その後はだんだんそんなことないんだと分かっていって。目の前の彼もまた、そんな印象だった。
「…! 美味い!」
『(生“美味い!”だ……)』
「初めて食べたが、どんな味付けをしてるんだ?家で再現できるだろうか」
『うーん、唐揚げなんて作らないからな…お店の味付けも分かんないし…』
というか、ここで知ったものを帰ってから再現しようとしない方がいい気がする。なんか時系列狂いそうだから。
そう返すと、「むぅ…」と煉獄さんが口を尖らせた。だからいちいち可愛いな。ほんとに。
お弁当はお気に召したようなのでひとまず安心した。毎日買って食べるわけにはいかないけど、とりあえずこれは食べられることが分かった。
問題は夕飯だなあ。今日だけなら買い食いしてもいいけど、しばらくいるなら作るべきだよね。経済的に。私が大富豪だったら良かったのに。
この人に出せるくらい上手に作れるものなんてあっただろうか。料理し始めたのなんて一人暮らし始めてからだし、他人にふるまうこともなかったので見た目なんか気にしたことがない。
何ならまともに作れるだろう。カレーならごまかしがききそうだな…でも私が買うのって甘口だけど大丈夫かな…などと悶々としていたら、問題はそれ以外にもたくさんあることに気付く。
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