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「や、やっぱりそう見えるか?」


『うん。もしかして熱っぽい?』


「いや、そうではなくて…多分…」




――日焼けなんじゃないかと…。
顔が火照っていることを自覚しながら、ぽりぽりと頭を掻く。


昼間、今度こそ帰る方法を真剣に考えねばと思いとりあえず日の当たる窓際に移動した。今更日光が効くとは思っていなかったが、何もしないよりかはいいかと思ったからだ。そこまでは別に良かった。
問題はその後。帰る方法で悩んでいたはずが気付いたら昨日のことを考えていて、さらに気付いたときにはそのまま寝落ちていたのだ。

穏やかな晴天でぽかぽかして気持ち良かったのは間違いない。が、寝落ちるとは思っていなかった。
我ながら気が抜けているなあと思った。この世界は平和だ。
直射日光じゃないとはいえ、日を浴びたまま一時間ほど。風呂場で鏡を見て自分の顔がうっすら赤いことに気が付いた。


苦笑いしつつ「日向で考え事をしていたら寝落ちていたんだ」と伝えると、明華は「もう…」と一言だけ漏らして再びぱたぱたと洗面所の方へ駆けて行った。




『日焼けなら、ちゃんと保湿しておかないと!』


「えっと…?化粧品か?」


『そう、ほらまずは化粧水から』




戻ってきた明華に「これ使って」と差し出されたのは、何やら細長くて白色の容器。見たところ化粧品のようだったが、そのようなものを一度も使ったことがないので一体どう使えばいいものかと。
もたもたしていたら、明華が自分の手のひらに中の液体を取り出し始めた。




『杏寿郎、目瞑って』


「…ん」


『最初は化粧水ね。もし痛かったら言って』




言われるままに目を閉じる。直後、柔らかくてひんやりとした明華の手が俺の顔を包んだ。
優しく撫でるように、でも時々押さえつけるようにしてぺたぺたと触られる。




『次に乳液塗って、最後にクリーム塗って…』




目を瞑っているので状況は分からないが、ぬるっとした何かを顔に塗られた。…なんだか妙に胸がドキドキする。
するりと頬から顎に指を滑らせた後、明華が「目開けていいよ」と言ったのでゆっくりと目を開けた。




『これで少しはマシだと思うよ』


「おお…ありがとう」


『3つとも洗面所に置いとくから、しばらくお風呂上がりに塗ってみて。もしまた日向ぼっこするなら、日焼け止めも置いておくから……』




言いながら立ち上がった明華はどこかへ駆けて行き、すぐに戻ってきた。「これが日焼け止めね」と言われて見せられたのはまた別の化粧品らしきもので、「塗っておけば日焼けしにくくなるから」と説明を受ける。
自分が疎いのか元の世界にはそもそもないのか分からないが、初めて見るものだったのでまじまじと見てしまった。
容器に細かい文字がたくさん書いてある。…なるほど、使い方と注意書きか。

「完璧に防げるわけじゃないから過信はダメだよ」という明華の言葉を聞きながら、これはいくらくらいするものなんだろうかと思考に耽っていた。




「ありがとう、世話を掛けるな」


『いいよこれくらい。帰ったとき日焼けで真っ黒だったらみんなに笑われちゃうよ?』


「はは、確かに」




想像してつい笑ったら、つられたように明華が笑って。
その顔にはもう昨日の泣き顔の面影はなかった。目が腫れている様子もなかった。やっぱり彼女には笑っていて欲しいと思った、…けれど。







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