2
――
「(明華は……)」
すっかり辺りも暗くなり、夕飯を食べるために帰りがけに入った飲食店で。
向かいに座っている明華のことを、大した意味もなくじっと眺めていた。
『どうしたの?』
「! い、いや、何でもない」
『……なーんかごめんね?そんなに意識されるとは思ってなかった』
「(ばれている…)」
泣き止み、普段通りに戻った明華が苦笑いをして頬杖をついた。
気にするなと言われたことを俺がずっと気にしていることは彼女にはお見通しらしい。
しかしそれが分かったところで、気にしないようにするというのも無理な話で。
あんなに直球でぶつけられる「好き」が、恋愛の告白としての「好き」だとは思っていなかった。
あんなに直球で「好き」だと伝えていたのに、まさか気が付いていないとは思ってもいなかった。
俺達二人の食い違いが生んでしまった妙な空気。嫌なわけではないが、どうもそわそわしてしまう。
『案外わたしのこと女として気に掛けてくれてたから、普通に気付いてるのかと思ってたよ』
「…君は俺を“応援してる”と言っていたし……告白というものは、そんなに大っぴらにするものではないと思っていた」
『あはは、雰囲気がなくてごめんね〜。でもレンには今しか伝えられないから、言えるうちに言っておこうと思っちゃってるのかも』
「それは……確かに、そうかもしれないが…」
彼女の言い分に納得してしまい、思わず言葉を濁す。
俺は先程のを「告白」だと受け取ったが、どうやら明華はそういうつもりで言っているわけではないようで。気にするなというのもそのせいだろう。
本当にただ俺に好きであることを伝えているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。だから「これからも今まで通りで大丈夫」、と。
本人がそう言うのだから俺もそうすれば良いとは思うのだが、頭のどこかでそれで良いのかと思ってしまう。明華の気持ちはきっと真剣なものだ。
でも俺が何かを考えたところでどうにもならないだろうから、彼女の言う通り結局は“気にしない”ことしかできないのかもしれない。
『ここまであからさまなのに分からなかったとなると、レンはよく女の子泣かせてそうだね〜』
「な、泣かせる?」
『絶対モテるのに、面と向かって付き合ってくださいって言われるまで気付かなさそうだなって』
「…期待に沿えられなくて悪いが、俺はモテた試しがないぞ?」
『えー、絶対レンが気付いてないだけでしょ』
「そんなことはない」
俺が黙り込んだせいか、明るい声で話し掛けてくる明華。何故だか彼女の中で俺は“モテる”ことになっている。
「今まで告白されたり手紙を貰ったりしたことは一度もない」と訂正したら、「偉い人だから話し掛けにくいのかもねえ」と呑気に彼女は答えた。訂正が意味を成さなかったようだ。
何を根拠に俺が女の子を泣かせていることになっているんだ…と視線に不満を込めて見つめたら、向かいの明華は少しだけ口角を上げて笑った。
『何人も居たはずだよ。…こんなに素敵な人、女の子が放っておくはずがない』
揺るぎのない言葉とその表情に目を奪われる。
――この子が俺を、好きなのか。
「(恋……か)」
深く考えたことのない単語が浮かんでは消える。
注文した料理が運ばれてくるまでの間、向かいに座っている明華のことを、
気付けばまた意味もなくじっと眺めていた。
俺の知らない君の感情
(どうすれば、知ることができる?)
END.
back