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「(あれ?)」




生まれた違和感が、次第に確信へと変わっていく。




「(俺は……)」




――この子を、恋愛対象として好きなのか?




『はい、杏寿郎』


「…ありがとう」




夕餉を温め直してくれた明華から皿を受け取る。

もしや俺も、明華のことを?




「(…考えようとしたこともなかった)」




ずず、と味噌汁に口をつける。


明華のことは好きだ。それは間違いない。
初めて会った俺にここまで良くしてくれて、おまけに懐いてくれて。むしろこれで嫌いだと言うのならその人が捻くれているとしか思えない。
今の俺と同じ状況下にあれば大抵の人間が彼女を好きになるだろう。この感情はごく普通のもので、それ故に追究しようとは思いもしなかった。
彼女に対する好意が、他人に向けるものとは少し違うかもしれないなどと。


でも今、このような流れになって。恋というものを大まかに教わって。
振り返ってみると何となく当てはまる事柄が多いように思う。もしかしたら自分もと、そう思える。




「(もう少し……決定打が欲しい)」




この感情が、本当に“恋”だと呼べるものなのか。


明華が俺に恋をしていると思った瞬間は何だったのだろう。何をもってして恋だと思ったのだろう。
彼女が教えてくれた感情はどれも曖昧で、しかも「人によっていろいろある」らしいから、断定するには要素として弱い。
でも明華は俺を恋の相手として言い切った。きっと何か理由があるはずだ。

先程と同じように聞いてみてもいいかと思ったが、ちょうど食事が終わって彼女が立ち上がったので、少しは自分でも考えてみることにした。




「(他の“好き”と…何か、違うところ……)」




自分の食器を重ねて台所に持って行く。
洗い物をしながら「ありがとう」と言った明華に食器を預けて、俺は布巾で机を拭いた。


恋愛の最終地点と言えばやはり“結婚”だろうか。ここは決定的に他の好意と違うところであるはずだ。
しかし明華の場合は俺と結婚がしたいわけではなさそうで、どうもそこがよく分からない。そもそも明華は俺と出会うことすら想定していなかった。
つまり結婚を目指しているわけではない、と。

結ばれない前提の恋とはしていて楽しいものなのだろうか。明華を見る限り楽しそうではあるけれど。
辛いこともあるんじゃないだろうか。そう考えて思い出したのは、観覧車の中で「夢だった」と言って泣いた明華のことだった。




「(…そうか)」




あれがきっと、そうだった。

すとんと腑に落ちた。恋だったから、明華はあのとき泣いたのだ。
泣いてもらえるほど楽しかったのかと思っていたが、考えてみればそれで泣くって相当だ。友達としての“好き”だったらきっと「楽しかったね」で終わっている。
何故気付けなかったのだろう。いや、普通は気付くところだったのだろうな。俺が疎いだけで。
遊園地には恋人らしき二人組がたくさん歩いていたにもかかわらず。


…そういえば、いたな、恋人。全然知らない人たちだが、もしやあれが参考になるんじゃないか。
数が多くて嫌でも目に入ったから何となく覚えている。一番よく覚えているのは、……




『杏寿郎?』


「…、え?」


『どうしたの、ぼーっとして。ほら、デザートにプリン食べない?』


「え、ああ……」




名前を呼ばれて顔を上げる。

視線の先で、明華が小さな容器をふたつ持ってニコニコと嬉しそうに笑っていた。







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