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頭痛なんて久方ぶりだ。

ズキズキと痛む頭を押さえて、寝返りを打つように体を横に向けた。




「(困らせてしまった……)」




目の前にいた大きなぬいぐるみを抱き寄せる。


順番を間違えてしまった。
両想いだと認識しているのは俺の方だけなのに、明華に気持ちを伝える前に口付けようとしてしまった。
困惑して当然だ。いくら好きだったとしても、“そういう”関係ではない男から突然迫られたら。




「(寝ぼけていたのは間違いないが、好きであることは本当なのに…)」




ぎゅう、とぬいぐるみを抱き締める。顔を埋めたら明華の匂いがした。


さっきので嫌われてしまっていたらどうしよう。明華ならきっとそんなことはないと思うけど、そう思いたいけど。
嫌われていないにしても簡単に手を出す男だと思われたかもしれない。こんなこと、今までしたこともしたいと思ったこともないのに。
目の前にいたのが明華だったからこそうっかり手が出てしまったわけで。別の人だったら、絶対にこんなことにはなっていない。

早く謝りたい。誤解を招いたなら訂正させてほしい。
気持ちは本当だって、俺も好きだって伝えたい。




「(そうだ、パソコンを使えば)」




明華が帰ってくるまではまだだいぶ時間がある。でも「パソコン」を使えば、伝言だけはすぐにできると思い付いた。
急いで起き上がって机に向かい、パソコンを開く。が、文字を打ち始めてから一分も経たないうちに手が止まった。




「(…駄目だ、ちゃんと顔を見て言わないと)」




途中まで打った文を消してパソコンを閉じる。

確かにこれで伝言はできる。彼女のことだから、早々に見てくれて返事もくれるだろう。
でもこんな無機質な文字で謝ったところで誠意が伝わる気がしなかった。せめて、最低でも電話で直接話さないと。
そうなるとそれなりに時間が掛かるし向こうの手間にもなる。俺は謝罪がしたいのにかえって迷惑だ。
それに文字よりかはましというだけで、やはり声だけでは伝えられることに限界がある。面と向かって言うに越したことはない。

今すぐどうにかしようと思うのは一旦諦めよう。明華は遊びに行ったわけじゃないのだから、邪魔するのは悪い。
布団に戻り、ぬいぐるみの隣に倒れ込んだ。




「(明華…)」




早く会いたい。つい先程まで一緒に寝ていたのにそう思う。

恋って、やたらとその人のことを考えてしまって。気になって仕方がなくて、特別好きだと思えて。
家族や友達とはしないことをしたくなる、そんな相手。
やっと分かった。明華も同じ気持ちだったら良いな、と思う。

今日はもうおそらく明華のことしか考えられない。帰り方なんてもはや今に限っては見付けたくもない。
早く夜になってくれ。早く明華の仕事が終わってくれ。もうひと眠りすれば少しは時間が経つだろうか。
今朝のことですっかり目が覚めてしまったが、このまま静かに横になっていればまた眠れるかもしれない。


まだ少し痛みの残る頭をぬいぐるみに埋めて、脳裏に彼女を思い浮かべながら目を閉じた。






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