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――




「すまなかった!!」




扉が開いたと同時に頭を下げる。




『…え?』


「今朝はすまなかった!君の許可も貰っていないのに、勝手な真似をした!!」




「おかえり」よりも前に謝罪を開始した俺に、明華が驚いた顔をしながら玄関の扉を閉める。


案の定、今日はどう謝ろうかくらいしか考えられなかった。明華の「今から帰る」という伝言には普通の返事をしておいて、帰宅した彼女と顔を合わせた瞬間に謝ることに決めた。
今朝のあれは寝ぼけていたせいでやってしまった。先に言うべきことがあったのにそれを抜かしてしまった。いくら明華が俺を好きだと言ってくれていたとしても、やっていいことと悪いことがあった。

でも決して変な夢を見ていたとか他の誰かと間違えたとか、そういうわけではないからそこだけは勘違いしないでほしいと、まだ状況がよく呑み込めていなさそうな明華に力説した。




『えーっと…うん、とりあえず手洗ってきてもいい…?』


「あ……すまない、つい…」




玄関で立ち話をしていたことに気付いて道を空ける。

見たところ、明華は怒ってはいなさそうだ。嫌われたという雰囲気も特にない。
洗面所の前で廊下を曲がった明華を横目に、先に居間へと向かう。食卓で待っているのは変…だろうか。待ち構えているような感じになってしまうかもしれない。長椅子にしておこう。
横に一人分の場所を空け、ボスンと椅子に座る。

数分もしないうちに明華がやってきて、脱いだ上着と荷物を置くと俺の隣に腰掛けた。




『それで……今朝の話だっけ?別にあれくらいじゃ怒らないから、そんな謝らなくて大丈夫だよ。…ちょっとびっくりしたけど』


「あ…と、本当にすまない、夢うつつで…」


『まあ、起き抜けってそういうことあるよね。わたしもたまにあるし』


「そ、そうか?…じゃない!明華、聞いてほしいことがある」




このままだと他の話題になりそうな予感がして話を戻す。放っておくと適当なところで切り上げられそうな流れだ。いつもなら明華はすぐに風呂に向かっているところだから、そのせいもあるかもしれない。
二人掛けの狭い椅子の上、すぐ横にあった彼女の腕を掴む。

俺の言葉と行動に何かを察したのか。
こちらを向いた顔にはどこか迷いのある表情が浮かんでいたが、構わずに言葉を続けた。




「君が好きだ。君への気持ちが恋だと、君に言われて気付いた。
言われて考えてようやく気が付くくらい、俺は鈍間なのだが……明華のことが、本気で好きだ」




逃がさないように腕に力を込める。

結婚したいだなんて、そんなことは望まない。彼女と結ばれることがないのは俺も分かっている。だから俺のこの「好き」は、明華の言う「好き」と同じだ。
伝えたいと思ったから伝えた。それだけだ。

ただ――もしも少しだけ、我儘を言えるなら。「好き」のその先を、少しだけ望むことが許されるなら。
結婚したいとは言わない。言わないから、両想いの相手としかできないことを――少しだけ。少しだけで良いから。




「…今朝のあれは、俺が君と……口付け、したくて…した。
明華さえ良ければ、…したいのだが、……」




語尾がどんどん小さくなっていく。

明華が俺に抱いているのが恋愛感情で、俺が抱いているものも同じであるなら。そうなって初めてできることがある。
たとえずっと一緒に居れるわけじゃなくても、今この瞬間だけだったとしても。少しでもいい、恋をした相手としかできないことをしてみたい。
俺もあの恋人達のように、明華と愛し合ってみたい。


俺の言い分を一通り黙って聞いていた明華は、やがて顔を上げるとふっと柔らかく笑った。




 



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