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『ずるいなあ、絶対成功する告白なんて』


「え…。すまない…駄目、だったか?」


『だめじゃないよ。……ずるいなぁ』




明華の顔が淡く染まる。
何度か見たことのあるその照れた顔が、今はどこか特別なものに見えて。
呼応するように、俺の胸がとくんと鳴った。




『遊園地のとき思ったけど、杏寿郎は“口付け”って呼ぶんだね。なんか風情があっていいな』


「ここではあまり言わないのか?」


『そうねえ…。一般的には“キス”って言うかな…』


「きす……」


『…杏寿郎がしてくれるなら、わたしもしたい』




――キスして?




「っ、」




強請るようにそう言って、彼女がどこか悪戯っぽく笑う。
正しいやり方は分からなかったが、弾かれたように明華の頬を両手で包んだ。




「んっ、…!」


『…ん』


「………」


『…んむ』


「!? んん、…っふ、……っ」




見よう見まねで唇を重ねたものの、それ以上は動けず。これがキスか、としばらくその温かくて柔らかい感触に浸っていたら、明華が不意に俺の後頭部を片手で引き寄せた。
何だろうと思っていたら唇に生温いものが当たって、驚いている間もなく何かがにゅるりと口内に侵入してくる。
それが明華の舌だと分かったのは数秒後で、その頃には味わったことのない感覚で身体がビリビリしていた。




「はあ…っ、」


『…あー……ごめん、つい…』




肩で浅く呼吸する俺の頭を明華が撫でる。それにすら過敏に反応してしまうくらい、先程の口付けが身体に響いていた。
明華の舌がどこかに触れるたびに背中のあたりがゾクゾクした。何だ、あの感覚は。そもそもいきなりあんなに深いやつ…なんて。

頭が真っ白で追いついていない俺に対して明華は割と平然としていて、ふと彼女との年齢の差を思い出した。




「明華……したこと、あるのか…?」


『いや?ないよ?』


「君だけやけに落ち着いてて……なんだか、…悔しい」


『別に落ち着いてないよ…。強いて言うなら、夢なんじゃないかって疑ってる……かな』




息が整わないまま明華の方へ倒れこむ。抱きとめた彼女は優しく俺の背中をさすってくれた。
なんだかいろいろと負けている気がする。おかしい。明華は俺が抱き締めただけで照れたり焦ったりしていたはずなのに。


聞こえた単語に、回していた腕にぎゅっと力を込めた。




「夢じゃない、…夢なんかで、終わらせない」


『…うん』


「明華……俺がここにいる間だけでいいから、俺の恋人になってくれないか?」


『……、喜んで』




抱き合っていて顔は見えなかったが、そう言ってくれた明華の声は柔らかかった。
肯定の返事が胸に染み渡る。恋。これが、恋。


嬉しいのに、同じくらい胸が苦しかった。こんなに近くにいるのに、何かが足りないと思ってしまう。
もっとほしい。もっと明華で埋めてほしい。俺の全部、明華で。

明華も、そう思ってくれてる?




『…そんなに分かりやすく見つめないでよ』


「ん……分かりやすいか?」


『目元が色っぽいもん。…顔赤いし』




垂れた髪を明華が指で耳にかけ直してくれる。そのひとつひとつの動作にドキドキした。
恋って不思議だ。こんなに短期間で、見える景色がまるで違う。

しばらくぼやっと見つめていたら明華はちょっと困ったように笑って、俺の頬に軽い口付けを落とした。




『続きはお風呂とごはん済ませたらね』


「あ…。…ああ」


『じゃあ、お風呂入ってくる』




スッと明華が立ち上がる。俺の頭を撫でてから彼女は洗面所へと消えていった。


――最初のキスが忘れられないこと、バレていただろうか。
顔が熱いままごろんと寝転がる。「続き」って…何だろう。そんなに深い意味はないのだろうか。
まだ初めなのだから、変な期待をするべきではない。多分。

長椅子にはまだ、彼女の熱が残っていた。












END.







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