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「日付が変わったら、此処に来て丁度ひと月になるのか」


『うん…そうだね』


「いろいろあったが、俺は未だに帰れていないな」




「明華と結ばれるためだろうか」と呟いて、杏寿郎が私の方に身を寄せる。
そうはならないと彼も分かっているせいだろう。その静かな声は少し笑いを含んでいて、――でも、半分くらいは本気で言っているような――そんな風な声だった。




『ほんとにそうだったら、わたしが一生養うよ』


「ふふ……頼もしいな、君は」




「なら安心だな」と、穏やかな声色で吐かれたそれには言葉とは裏腹に不安が混じる。
抱き寄せたら、杏寿郎は身を任せるようにして頭をこちらへもたれた。


昨日のキスからずっと、自分が妙に落ち着いていることが疑問だった。
キスなら一周回って恥ずかしくないのかもとか、まだ頭が追い付いてないのかもとか、適当なことを思っていたけれど。
今こうして甘えてもらえて安心したことから察するに、どうやら無意識のうちに彼を「守る対象」だと認識していたせいらしい。杏寿郎が明確に“赤の他人”じゃなくなったことで、私の中で彼の扱いが変わったのだろう。

明日で一ヶ月。
最終的にどうするかは杏寿郎に委ねるけど、もし――もし仮に「もう帰れないかもしれない」という判断を下す時が来て、その際に私が頼りにならない人間だったら。
彼が行き場を失って困ってしまう。だから私がしっかりしなければいけない。
私が私しか頼れないような状況を作ったのだから、私がその責任を負わなくてはならない。無論、負うつもりだ。


杏寿郎がこの世界にいる限り、私が彼を守る。彼に頼ってもらえるような人になる。
その気持ちが心に影響したせいで昨日から変に落ち着いていたらしい。
じゃなきゃ、この人にキスなんてされて平気でいられるわけがない。




「…そろそろ寝るか?」


『あ、もうこんな時間だったんだ……電気消すね』


「明華、その前に、」




――キス、してくれるか?
起き上がった私を見上げるように目で追いかけて、彼が縋るような声を出す。

逞しくて凛々しくて、年下だけど私なんかよりよっぽどしっかりしてて、きっと今までも多くの人が頼りにしてきたであろうこの人。
その頼りが“私”なんだと、恋人になって自覚した。




「ん、…」


『おやすみ…杏寿郎』




私で良ければ、傍にいるからね。


明かりを消して横になる。
すぐに杏寿郎の手が背中に回ってきて、僅かな身体の隙間を埋めるように強く抱き締められた。






しでも、君を


(支えられるような人間になれたら)




END.







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