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「明華は……唇がぷるぷるだな」




彼女の帰宅後、週末の出掛け先を決める会議中にそう言ったら隣で明華が固まった。




『……え?急に何?』


「ぷるぷるだ…」


『そう?気になるの?』




スマホを片手に探し物をしている明華が、半分くらい聞き流しつつも返事をくれる。

この世界には自分の好きな作品に出てきた場所や建物を実際に見に行く人がいて、さらにその参考になるような情報を趣味でまとめる人がいるらしい。明華はそれを探してくれていた。

横にいる俺はそんな彼女を眺めていただけだったので、つい先程のような言葉が漏れた。




「明華は女の子だから、細かいところにも気を遣っているんだな…」


『いや、普段はこんな気遣ってないよ?杏寿郎がいるから気にしてるだけで』


「そ、そうなのか…」




何気なく言われたことに少し顔が熱くなる。明華が可愛らしいのは最初からだから、それが普通なんだと思っていた。…俺がいるから、気にしてるのか。
自分の唇に手を当てる。明華とキスをするのに俺は大丈夫だろうか。がさついた唇は明華のと比べたら硬くて、俺も何かした方がいいんじゃないかと思った。




『会社でも軽く見てたんだけど、なんかあんまり良いところがないな〜…。浅草抜くと近くにあるのは山ばっかで、行くなら気合い入れて行かないとだめそう…。…杏寿郎?』


「ん?ああ、山があるのか?」


『そう、ただあんまり杏寿郎とは関係なさそうな場所なんだよねえ。他の登場人物の場所っていうか……そんなに気になるならリップ貸そうか?』




会話中も俺がずっと唇を触っていたからか、「持ってくるよ」と言って明華が部屋から消えた。その後すぐに戻ってきた彼女は手に小さな容器を持っていて、前に日焼けしたときのことを思い出す。
指に薬のようなものを掬い取り、「口閉じててね」と笑った明華は反対の手を俺の顎に掛けた。




 



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