桜舞う
花見なんて、興味がなかった。
同期を中心に計画された花見。今年は去年より天気が良く、見頃の時期が長いらしい。
毎年恒例でも何でもないのに誰が行こうなどと言い出したのかは分からないが、カカシから話を聞いたナルトやサクラが行く気満々で、自分はそれに巻き込まれた。
仕方なしに支度をして、弾まない足取りで待ち合わせ場所へ向かう。会場には見覚えのある人間が一箇所に固まっていた。
「こっちこっちー!」
「へー、良い場所取れたじゃない!」
「アスマ先生が早起きして頑張ったのよ。
それよりサスケ君は私の隣に!」
「させないわよいのブタ!私達の班は一緒にご飯食べるんだから!!」
着くなり早速知人に声を掛けられたが、とても近付こうとは思えない。
目をやったレジャーシートの上にはお弁当らしき荷物と、酒を含む飲み物の缶がいくつか。シカマルやチョウジに叩き起こされていたアスマは場所取りの担当だったらしい。
なるべく騒がしくないスペースに座るべく周りを見渡すと、久しぶりに見る人の後ろ姿が目に入った。
「(あれは…)」
長い茶髪に、白い脚を際立たせる暗い青色のロングスカート。アカデミー時代にあまり話したことはなかったが、成績優秀で容姿端麗と称されていた同級生。
所謂“高嶺の花”。名を龍華架音という。
同じタイミングで下忍になった彼女とは、その実力から一度手合わせをしてみたいと前々から思っていた。
「あれって確か…龍華さんだっけ?こういう集まり来るのね、意外〜」
「サスケ君、龍華さんがどうかしたの?」
「…、…いや」
「あの子、優秀過ぎてなんか近寄り難いのよねー……あ、だからってサスケ君は違うけど!」
静かな場所を求めているのに構わず着いてくる二人に思わず溜息。と同時に、うっかり出てしまった様子のいのの言い分を脳内で反芻する。
確かあいつは、アカデミーでは男子に人気があったものの“高嶺の花”故に近付かれず、その人気故に女子ともあまり話していなかった記憶がある。その部分はほとんど友達とつるむことのなかった自分と似通ったものを感じていた。
話した数は両手で数えるほどだったが、実は気が合うのではないかと。今思えばそう思ったその時に声を掛けておけば良かったのかもしれない。
「…優秀な奴が煙たがられるのはどこも同じだ」
「あ、サスケ君!」
成績で一番だったオレも、最年少首席で卒業したオレの兄貴も。周りからよく煙たがられていたから、気持ちは分かる。
良い機会だ。あいつは口煩かったイメージがないから、この花見とやらを静かに過ごすのにもちょうどいいだろう。
任務でどんなことをしているのか、どの程度の難易度の任務を受けているのか聞いてみたい。なんならこの後、一度くらい本気の手合わせでも。アカデミーでの生ぬるい“お遊び”なんかではなく。
飽きないのか、未だ桜を見上げたまま動かない彼女に後ろからゆっくり近付いた。
「なあ、…」
――ぶわり。
それは彼女がこちらを振り向いたのとほぼ同時だった。
一際強い風が吹いて、桜の花びらとゆるくウェーブのかかった彼女の髪の毛を攫う。
背景は一面の薄いピンク色。その中に佇む、容姿端麗と持て囃された一人の少女。
儚くも美しい彼女の姿は、桜と相まってまるで映画のワンシーンのようだった。
「…綺麗……だな」
反射に近いものだったと思う。
気が付いたら漏れていたその言葉は、完全に無意識で。
振り向いたそいつはキョトンとした顔をしていて、それで初めて声に出していたことに気が付いた。
思わず自分の口を手で覆うが、言われた当の本人は数回瞬きをした後ににこりと笑っただけ。
『…うん。桜、綺麗だね』
そう一言、勝手に納得したような言葉を付け加えて。
「…。よく飽きずに見てられるな」
『たった今サスケ君も綺麗だって言ったじゃない』
「それは…そうだが」
唐突に会話を始めたせいで矛盾が生じ、言葉に詰まる。でも彼女はそれ以上追及しては来なかった。
うまい具合に勘違いをしてくれたとほっと胸をなでおろしたが、その一方で心臓のあたりがざわつく。
彼女の言い分を「勘違い」だと思った、それはつまり。
さっき自分が綺麗だと感じたのは、この一面に美しく咲き誇る桜ではなく。
「(……いや、まさかな)」
オレに限ってそんなことはないだろう。花見には興味がないが、きっと心のどこかで桜を美しいと思ったのだ。
そしてこいつがただ、偶然その場に居合わせただけ。
適当に納得して顔を上げる。
しかしながら確かに、視界に入った彼女越しの桜は、何故かそれまでに見ていたものよりも一際美しかったのだった。
桜舞う
(それならオレは、)
(この心臓のざわめきをどう説明する?)
END.