それはしあわせな、



「嫌いだ」


『…は?』




とある日の放課後。
いつも通りアカデミーに行き、いつも通り授業を受け、いつも通り帰ろうとした。
ただひとついつも通りではなかったのが、噂のエリート“うちはサスケ”に引き留められたこと。

話があると言われて来てみれば、いきなり一言「嫌いだ」。
唐突過ぎて状況が全く分からない。




「……、オレはお前が…嫌いだ」


『はあ…。そうですか……』


「それだけだ、じゃあな」




話というのはそれだけだったようで。
さっぱり訳が分からないまま、短い会話は終了した。



――



「おはよう架音!」


『おはよう!』




次の日。
廊下ですれ違った友達に挨拶をしながら教室の扉に手を掛ける。
あっさり受け流したものの、やはり引っ掛かる昨日の言葉。


嫌いだなんて、何も身に覚えはないのだから余計に気になる。
そもそも私はあの人とはあまり関係がないのだ。あるとすればクラスが同じくらい。
彼の周りにはいつも取り巻きの女の子がたくさんいてとても近付けるものではないし、話したことだっておそらく数回。
その中のどこかで嫌われてたのか、それとも何か勘違いでもされているのか。




『(…まぁいっか、気にしなければ)』




嫌われていると分かっているなら、わざわざ話しかけなければいいだけ。
勘違いを正そうと思うほど仲が良かったわけでもないし、気にすることもない。

何も考えずにいつも通り教室の扉をくぐれば、視界の隅でその人が今日も女子に囲まれていた。



──



「架音、話がある」




放課後。
もう関わることもないだろうと思っていた人間になぜかまた話しかけられた。
しかも昨日と同じセリフ、同じ場所。一体何のデジャヴ。




『今度は何…?』


「……その様子だと、気付いてないか…」


『?』


「昨日…何の日だか知ってるか」




なぜこうも絡まれるのか。嫌いなら構わなければいいのに。
不機嫌を隠せずにいれば唐突に投げられた質問に、とりあえず言われたままその意図を考え始める。

昨日、昨日。
今日は4月2日。つまり昨日は1日。
4月1日のイベントといえばひとつしか思いつかない。でもそんな馬鹿馬鹿しいとも言えるイベントにエリートさんが何の御用なのか。
少し控えめに「エイプリルフール以外に何かあったっけ」と聞き返せば「それだ」と言われて面喰らう。案外この人、面白い人なのかもしれない。




『……、それがどういう…』


「…、気付けウスラトンカチ……!」




「オレが昨日言ったこと思い出せ」と続ける彼。前々から思っていたがウスラトンカチとは何なのか。

なぜか馬鹿にされむっとしながら思い返すも、昨日言われたことなんて“嫌いだ”くらいのもの。
ああなんだあれは嘘だったのかと、不機嫌も忘れて一人ほっとした。




『良かった。てっきり私が何かしたのかと』


「……バカ」


『え?』


「そんなことだけに、オレがわざわざ呼び出してまであんなこと言う訳ないだろ……」




どんどん声が小さくなっていく。その見たことない姿にまたひとつ、彼のイメージが崩れた。
仕舞いには風の音でも掻き消されるようになり、聞き取れないからと近付いた。




「……だ、…よ」


『え、ちょっと待ってもう一回…』


「……っだから、何度も言わせるな!
オレはお前が好きだ!」


『!』


「……っと、その…」




半ばヤケになったらしいその言葉がしっかりと耳に届く。
大きな声に自分でも驚いたのか、彼は少し頬を染めてから視線を逸らした。
昨日とは違う意味で体が固まって動けない。




「……良かったら、考えておいてくれ…」




またひとつ、またひとつ。
崩れたのは、彼のイメージだけではない気もした。










ちいさくておおきな嘘


(ああ、)
(まずいかもしれない)



END.






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「だから何度も言わせるな、オレはお前が好きだ」は本当にサスケが言ったセリフ。ラジオで。
あれは聞くべき。

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