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見知らぬ鳥が運んできた頼りに、私は酷く驚かされた。




『サ…スケ……?』




一枚の紙切れに並ぶ文字を思わず口に出して読む。
何度見ても変わらないその文字の羅列は、一時期世間を賑わせた人の名前だ。

“うちは唯一の生き残りが里抜け”
“うちはサスケが暁に入った”

人伝にそんな話を聞いたのも、もう随分と前で。




『(門の前で……明日の23時に…)』




――お前を待つ。

白地に線を引いただけの簡素な便箋に書かれていたのは、日時と私の名前だけ。
何の前触れもなしに突然届いたそれを、私は何度もただ読み返すことくらいしかできない。


…まさか彼が?
何も言わずに里を去り、その後二年間、連絡のひとつも寄越さなかった彼が何故今更。わざわざ危険を冒してまで里に来て待たれるようなことをした心当たりは全くない。
もし仮にそんなものがあるなら、今私が何の事情も知らずに放置されているのはおかしいんじゃないのか。というかそもそもこの手紙自体、本当にサスケが書いたものなのかって話で。
こんな術も何も仕込んでないペラ一枚の紙に名前だけ書かれてても、成りすましなんていくらでもできる。

しかしながら、見覚えのある筆跡と短すぎる文章に彼らしさを感じてしまったらしい私は、気付いた時にはその手紙を綺麗に折り畳んで机の引き出しに移動させていた。




――




一日をこんなに長く感じたのはいつぶりだろうか。
それが彼が里抜けしたと聞いた日以来だと自覚して、嫌気が差して考えるのをやめる。

辺り一面黒一色で染まるこの時間帯、若い女が一人で出歩くには向いてなさすぎる時刻を時計が指し示す。何かあったらどうしてくれるんだと、まだ目にしてもいない手紙の送り主に心の中で愚痴を吐いた。


コツリと不意に響いた足音に視線を投げれば、見慣れているようないないような人物が闇の中から姿を現す。




『……、サスケ…?』


「…ああ」




久方ぶりに耳にした声が、静かな空間に広がってやけに低く響いた。
そのたった一言で彼が“本物”であると判断する。ほとんど直感だが、数年離れた程度で鈍るような感覚でもない。それぐらいの存在だったのだ、彼という男は。




『今更わたしに何の用?』


「…怒ってるか?」


『当然よ』




まさか本当に現れるとは。

電灯の僅かな明かりに照らされた彼は、見ない間にいくらか背が伸びていた。髪型や服装も相まってだいぶ大人びて見えたものの、纏う雰囲気は以前とさほど変わらない。
特別変わったところを挙げるとすれば、やけに声のトーンが落ち着いているところか。最後に会ったのが兄と一悶着あった時期だったから、比較するには条件が不揃いかもしれないけれど。


ここへ呼び出した用件を尋ねれば、あの質素な手紙のようにサスケが「一緒に来い」とだけ吐く。
訳も分からぬまま年単位で放置されたかと思えば、今度は突然共に来いと。相変わらず自分勝手だと、その横暴さに怒りを通り越して呆れることしかできなかった。