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『何が一緒によ。じゃああの時、連れて行けば良かったじゃない』
「あの時は……お前を連れ出せる自信がなかった」
『今はあるって言うの?』
「ああ」
何の躊躇いもなく肯定の返事が寄越される。“自信がなかった”なんて彼らしくないその台詞は、当時は聞いた覚えがない。
時期が来たのだと彼は表現するのだろうか。でもこちらとて、簡単に折れるわけにはいかない。
『…わたしがまだ貴方を好きだと思う?』
「!」
――着いて行く理由がないわ。
当時であればあったはずのそれが今はない。素直に事実を伝えれば、彼は押し黙った。
うちはサスケ。二年前、確かに恋仲だった人。
正しく言えば、別れた覚えがないので今でも恋仲なのかもしれない。断定しないのはもちろん、この人が無断で二年も居なくなったせいで。
何の連絡もなしにそれだけの時間が経ってしまったのだから、どちらかがもう終わったものだと判断すればそれまでだ。自分に関して言えば特に何もなかったのだけど、彼が二年間どこで何をしてたかなんて私は知らない。目の届かないところで女を作っていたって、私には分からない。
二年前であれば迷うことなく着いて行ったと思う。それくらいには彼のことが好きだった。
でも今は?そう聞かれれば、きっと私は答えに迷う。
『サスケは何でわたしに来てほしいの?』
今となっては、サスケが本当に私を好きだったのかも分からない。仮にも彼女である女の子を、理由を伝えることなく二年間も放置するだろうか。私からしたら正直「有り得ない」だった。
サスケが勝手にいなくなった後、しばらくは朝から晩までずっと泣いていて。サスケと仲良くやっていた班のみんななんかは同じように辛いはずなのに、いつも励ましてくれていた。
悲しみに暮れる中でいろいろと考えた結果、私の出した答えはひとつで。
「諦めよう」。彼にとって私はその程度の存在だったのだ。もう好きでいるのはやめよう、全部忘れよう。それが一番の解決策だ。
ちゃんと考えて結論を出したのに、ふとした時にいちいちこの人の顔が浮かぶから。今は、この人のことがたまらなく「憎い」。
「お前に来てほしい理由は……。…お前なら、きっと分かってる」
そう、今だって。迷いを吹き消すかのようなその態度が、本当に心底気に食わない。
今更また現れて、私をあんなに悩ませておいて、それなのにまるで何事もなかったかのように攫っていこうとする。自分勝手にも程があるだろう。
頭ではそう考えているのに。彼と視線が交わった瞬間、確かに心がぐらりと揺れた。
「分かっていないなら……お前は今、ここにいない筈だ」
ゆっくりと目を伏せた彼に身構える。
来ると分かっていたのに、体が固まって上手く動いてくれなかった。
『…っ! 離し、』
「甘い…。なんだかんだ、お前はオレから逃げられない。昔と何も変わらない」
『…!』
「変わったと言えば……髪が少し、伸びたくらいか」
一気に縮まった距離に心臓が跳ねる。
細くて綺麗な指が私の髪に絡められた。何度か切ろうと思ったそれを結局ここまで放置していたのは、きっとその昔どっかの誰かが褒めてくれたからで。
「お前がオレを好きかどうかはどうでもいい」
きつく回された腕を振りほどけないのは、きっと心のどこかでこの感触を欲していたからで。
「オレは、今でもお前を愛してる」
単なる力の差だけではないことを、何となく分かっていた。
ここへ来る前からおそらくこうなるだろうと、何となく予測していた。
だからこそ、悔しい。
「架音……迎えに来た」
耳元で聞こえるその声が、いつの間にか嵌められていた薬指のリングが、何よりも肯定以外の返事を受け取る気のない彼のことが。
どこまでも憎くて、それと同じくらいに、ずっとずっと愛おしかった。
ずっと待ってた
(たまらなく好きで、たまらなく憎い)
END.