おかえし
「ホラよ。その……お返し」
アカデミーの帰り。
サスケの家に呼ばれて部屋に入るなり、顔に似合わない可愛い紙袋を渡される。
今日はホワイトデー。いわゆるバレンタインのお返しをする日。
『ありがとサスケ!』
「お…おう」
素直に礼を言えば少し頬を染めた彼に視線を逸らされる。
クールキャラで定着してるサスケが、いかにも女の子が持ってそうなピンクの紙袋を持ってるのが面白い。
律儀に一人一人お返しをする彼が唯一部屋に呼ぶのは私だけなんて、勝手に優越感に浸りながら部屋にあったソファーに腰かけた。
中身を漁ればリボンや造花で飾られた箱、中にはクッキー。
彼のことだから何時間も店をうろうろしてたんだろうななんて予測は実際のところ当たっていたらしい。今日ナルトがこっそり教えてくれたことは本人には言わない事にした。
ハートの形だったり、渦巻き模様だったり、シンプルだけどおいしそうなクッキー。
とりあえずひとつ取り出して「いただきます」と頬張る。
「…どうだ?」
『ん、おいしい』
「……そうか、良かった」
アカデミーでは見せない顔で笑う。
私だけに見せるその笑顔に釣られて私も笑った。
舌でクッキーの欠片を転がしながら、ふと、この前教室で女友達が話してくれたことを思い出した。
『ねえサスケ、お返しに意味があるのって知ってる?』
「意味…?」
『そ。お菓子ごとに違うの』
私の質問にサスケが首を傾げる。
かくいう私も、その友達から聞いて初めて知ったのだけど。
「クッキーにも意味があるのか?」
『…ある…けど……』
「……けど?なんだ?」
言ってから気付く、しかし時すでに遅し。
そういえば今回に限ってはあまり良い話ではなかったと今更思い出して、ただのネタのつもりだったのにとても後悔した。
言葉を濁したことに疑問を持ったらしいサスケに距離を詰められる。
振った私が悪いと、諦めて甘ったるさが残る口を開いた。
『私が知ってるのは、キャンディとマシュマロとクッキー』
「…クッキーは?」
『……えーっと、順番に言うと、キャンディが“自分も好き”、つまり両想い』
「で?」
『マシュマロが、“ごめんなさい”』
「…で」
『クッキーが、
…“友達でいましょう”』
「………」
黙り込むサスケ。やはり余計なことを言った。
もちろん彼は知らないで買っただろうし、話が本当なのかも知らないし、そもそもお返しをくれたこと自体が嬉しい訳でそれ以上は望んでいない。
ごめんねそういうつもりじゃなかったのと、謝りかけたところで突然引き寄せられて唇を塞がれた。
『んんっ……!』
後頭部を押さえられて身動きができない。
いつもなら触れる程度しかしない、彼らしくない長いキスに驚く。
息が切れて軽く押し返すと、ようやく彼は離れた。
『…、はあ……っ』
「……っ…、
架音、友達とは思ってねえから…」
『……っ、分かってるよ…』
ぎゅっと抱き締められて、反射的に抱きしめ返す。
悪いことをしたと反省した。
プライドの高いあのサスケがいっぱい悩んで買ってきてくれたのを最初から知っていたくせに。
「架音、ちょっと待ってろ。キャンディ買ってくるから」
『え!?いいよ!』
「オレが納得いかねえ……そんなんで何かが変わると思ってる訳じゃないが」
『い、いいってば』
「すぐ戻るから」
『……っサスケ!』
立ち上がろうとしたサスケの腕を全力で引っ張る。
その行動が予想外だったのか、倒れこむようにして彼はこちらに引き戻された。
――ちゅ。
勢いに任せて唇を唇に押し付ける。
さっきとは違って一瞬のそれ。しかしかなり驚いたのか、サスケが目を丸くした。
私からしたのはそういえば初めてだったと、自覚したときにはすでに顔が熱かった。
『…ほんとに、その、…十分嬉しいから、わざわざ買いに行かなくていいから……。ごめんなさい…』
「っ……わかった」
時間差で口を押さえて真っ赤になる彼。
見られたくなかったのか、はたまた珍しいと見入っていた私に気付いたのか。抱き寄せられて下を向かされる。
「来年は、キャンディにする」
『…ありがと』
「架音、バレンタイン、ありがとう」
『いいえ』
「……好きだ」
頬に寄せられた唇の温度を感じながら目を瞑る。
お返しなんて無くてもいいから来年も一緒いたいと、彼の腕の中で改めて思った。
おかえし
君がいればそれでいいです。
(私来年のお返しはサスケがいい!)
(…なんだ、じゃあバレンタインにはお前をくれるのか?)
END.