Sweet×Sweet
「…甘っ……」
嗅ぎ慣れない甘ったるい香りに思わず声を上げた。
任務が終わり、行くと約束していた架音の家のドアを開けたと同時に流れ込んで来た独特の甘い香り。
これはチョコレートといったところか。
「おかえり」と声がしても姿を見せないのを見ると、彼女は今手が離せないのだろう。
いつもの出迎えがないことに不満を感じないのには理由があった。
「(…今日はバレンタイン……)」
昔荷物が多くなりすぎて嫌でしかなかったイベントは、彼女ができてからは楽しみなものに変わった。
しかも架音が彼女になって今回が初めて。楽しみではない方が不思議だ。
おそらく今架音はチョコを作っている。そう、オレのために。
無意識のうちに上がる口角にこれではいけないと顔を引き締めてから家に上がる。
「随分甘ったるいな…」
『ごめんね、甘いの駄目だよね…。
大丈夫、サスケのは甘さ控えめだから』
何やら道具を持ちながら笑顔で振り向いた彼女は予想通り料理中。
淡いピンクのエプロンが可愛らしい。ばれないように上から下まで眺めてから近くにあった椅子に座る。
任務で使った武器を整理しながら、ひとつだけ引っ掛かった箇所を聞き返した。
「…オレのは、ってことは……他の奴にも作ってるのか?」
『あ、うん…もちろん義理だよ、いつもお世話になってる人に配るの』
明らかに一人分より多い材料。
オレが甘いものが苦手だと分かっているはずなのに、いかにも甘そうなストロベリーチョコやホワイトチョコが並んでいると思えばそういうことか。
「他は誰にあげるんだ?」
『うーんと……まずサスケがお世話になってるナルトとカカシ先生でしょ、それからシカマル、チョウジ、キバに…シノとか?
女の子だったらサクラ、いの、ヒナタちゃん………』
指を折って数え始める彼女に溜息を吐く。最近の女子はやたらいろんな人にあげてると思えばなるほど、義理の範囲が年々広くなっているらしい。いつからバレンタインは感謝を伝えるイベントにすり替わったのだろう。
立ち上がって背後に回れば、どうしたのと彼女は手を止めて振り返った。
「……オレのだけでいい」
『へ?』
「オレだけに作ればいい…オレのためだけに」
なぜ他の奴に作る必要がある。同性ならまだしも、何で他の男にまで。
感謝を伝えたいのなら何もわざわざバレンタインを選ぶことはない。
傾き始めたオレの機嫌に気付いたのか、架音は笑って「分かった」と道具を手放した。
『愛を込めたのは貴方のだけだったのに』
それでもだめなのと狙ったように笑う彼女に不意打ちのキスを喰らいながら、慌てて駄目だとその唇を塞いだ。
Sweet×Sweet
オレのためだけに作れ
(でもどうしようかしら。たくさん作っちゃったし、材料も余ってるし)
(オレが全部食べる)
(サスケは甘いの無理でしょ……って、もう食べてるし…)
END.