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“ねえ我愛羅、七夕って知ってる?”


そう尋ねた私に、赤い髪を揺らす貴方は首を傾げて見せた。




「…七夕?」




ああやっぱり分からないかと、大体予想通りだった答えに少しだけ苦く笑った。


我愛羅はもともとこういうイベントに疎い。
砂ではあまり季節の行事がないことに加えて本人が興味を示さないものだから仕方ないと言えば仕方ない。彼はクリスマスやバレンタインデーも知らなかった。



今日は特に任務もなく我愛羅達三兄弟と家でのんびりしていた。
みんな揃って任務ないなんて久しぶりだなあと思いつつ、ふと目に入ったカレンダーが示した今日の日付。

――7月7日。




『七夕…テマ姉とカン兄も知らない?』


「……分からない」


「オレもじゃん」


『……砂ってホントに行事ないのね』


「まーここは一年中似たようなもんだからな」




そう呟いたテマ姉はきっと去年のクリスマスを思い出している。
砂ばかりのここでは飾る木がないと考えた私が木ノ葉に三人を連れていったその日を。


木ノ葉で生まれ育った私は割とこういうイベントが好きで、三人を見ながらいつももったいないと感じていた。
この、一年に一回っていう特別感がいいのに。




『…あのね、七夕っていうのは』




──空に星があるじゃない?
そのうちの“天の川”っていう星の集まりの近くに、二つの目立つ星があるの。

それぞれを人に例えたお話があって、話ではそれぞれを“織姫”と“彦星”っていって。
織姫が女の人、彦星が男の人。


二人は恋人関係なんだけど、訳あって一年に一回──7月7日にしか会えないの。

それが今日、“七夕”。




「…訳?」


『二人が愛し合いすぎて仕事をほったらかしたらしいの。
それで罰として会えるのが一年に一回って制限されちゃったわけ』


「つまり、その年一回の日を織姫と彦星はお互いに待ちわびていると。
ふーん…結構ロマンティックな話なんだね」


『ふふ、そうでしょ?良かったら今夜みんなで星見に行かない?
天気もいいし、きっと見れると思うの』


「今日は任務ないし、ちょうどいいんじゃん?」


『…ね、我愛羅も行こ?』




視線を投げて問いかければ案外素直に頷いた我愛羅。
夜満足に寝れない彼が月を見に外へ出かけていくのは何度か目撃していたから、もしかしたら少しくらいは興味があるのかもしれない。


みんなと見れるならきっと綺麗だろうなと、そう思い描いたところで大事なことを忘れていたことに気付く。




『……あ!
あのね、短冊っていう紙に願い事を書いて、笹の葉に飾ると願い事が叶うんだって!もともとそういう行事なの!』


「本当じゃん?
(じゃあ彼女欲しいじゃん…できれば架音で)」


「へぇ、そんなのもあるのか?
(架音を妹に…)」


「………」


『……そういえば、砂に笹ってある?』


「「あ」」




自分で言っておいて思った、砂に笹というものが存在するのか。
クリスマス用の木がなかったのだからないのではという予想は的中した様子。
兄と姉は揃って固まった。




「今から木ノ葉に頼んでも……無理じゃん」


「今日中には届かないだろうな…」


『あ、そうだ、じゃあ私が!』


「「どうやって?」」




――…




『…準備OK!さあ、短冊短冊!』


「架音お前、何処からそれ出したんじゃん!?」


「口寄せ?笹って口寄せで出てくるものなのか?」


「……」




おもむろに巻物を広げて取り出したのは紛れもなく笹の葉。
突如登場したそれを抱えて外に出ていく私をテマ姉とカン兄が驚いた様子で見つめていた。


家の中に置いておくには大きすぎるそれを玄関先に立てかける。
口寄せ動物にあげるための笹がこんなところで役に立つとは思っていなかった。




「まあ…とにかく笹が準備出来たならいいか。
紙とペンならこっちで用意しよう」


『うん、よろしくテマ姉!』








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