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「持ってきたよ」とテマリが差し出したのは数枚の紙とペン。
適当に細長く切ってから三人に配る。
『みんなは何書くの?』
「私はー…とりあえず、架音を妹に欲しい」
『え、アタシでいいならいつでもなるよ』
「マジか!」
「飾る前に叶えてどうするんじゃん…」
「じゃあ何にするかな」と唸り始めたテマ姉の願い事を私は無意識にひとつ潰してしまったらしい。
でも嬉しそうだからいいかと残りの二人に目をやる。
『カン兄は?』
「オレは……彼女が欲しいじゃん」
『あれ、彼女いないんだっけ?』
「…架音……」
返事の代わりに項垂れた兄の考えることは分からない。
そんなに彼女がほしいようには見えなかったのだけど、案外そうでもなかったのだろうか。
『我愛羅は?』
「……オレは…、……まだ考えてない」
『ま、急に言われてもすぐには思い付かないよね』
「架音は何にしたんだ?」
『アタシはねー…、これ!』
「!」
ぴらり、見せた紙にはすでに書き終わった私の願い事。
――“みんなとずっと一緒にいられますように”。
「…へぇ、架音らしいじゃん」
『だって今が一番好きだもん』
「そうだな。架音が来てから我愛羅も落ち着いてるし、私達も助かるよ」
「……俺が?」
「前より表情豊かになったんじゃん?」
『…そうなの?何か嬉しいな』
「……、…飾らないのか?」
二人からの言葉に嬉しくなって頬を緩めていれば話題を切り替えたのは我愛羅。
この一瞬の隙でペンを走らせて紙を素早く裏返したのを私は見逃さなかった。
『飾るー、けどその前に我愛羅の見せて!』
「……いや、駄目だ」
『何で!?』
「駄目なものは駄目だ」
机の上の紙を奪おうとすれば取り上げられて高く掲げられる。
それをまた奪おうとして彼の座る椅子に乗り上げてみても身長差のせいで紙には届かない。
何の計画性もなく振り上げた手は空ぶった後行き場をなくして体ごと彼の方へ倒れこむ。
頬をかすめた赤い短髪がくすぐったい。
お前ら何じゃれ合ってるんだと、様子を見ていたカン兄に笑われた。
「いいじゃないか、何でも。
全員書けたなら飾りに行こう」
「そうするじゃん、星はまた暗くなってからでいいじゃん」
『そうね』
「……」
我愛羅の願い事を一旦諦めて外へ。
片付けるときにでもこっそり見てやろうと企む私を彼が目を細めて見てきたが気にしない。
急遽用意した笹は飾りがなくて少しばかり寂しい。
しかし今から用意したら七夕が終わってしまうのでここは我慢。
「本当に叶うんじゃん?」
「夢がないね、カンクロウ。
お前にもいつかきっと多分彼女が出来るさ!」
「いろいろ余計じゃん、テマリ」
『ねー我愛羅、どーしてもだめ?』
「……駄目だと言っているだろう」
『むー』
「まだやってるのか?」
わざわざ一番上に結び付けられた我愛羅の短冊は夜の暗さも相まって全然読むことができない。
ならばやっぱり本人に聞くのが手っ取り早いと思うのだが、一向に彼は教えてくれなさそうで。
むくれる私にいい加減諦めろと笑うテマ姉。
もう、他人事だと思って。
『我愛羅の願い事だよ?
もし私が叶えられるなら叶えたいじゃない』
でも見せたくないならいいや、とくるりと体を半回転。
ドアを開けて家の中へと足を進める、星が綺麗に見えるまではまだもう少し時間がある。
後ろでぽつりと呟かれた「愛されてるな」、「煩い」なんて会話は私の耳に入ることはなかった。