『ねえ、我愛羅』
自分を呼ぶ声に振り返る。
仕事中だろうと構わない、なぜなら呼んだのは想い人。
手を止めて振り向けば彼女は嬉しそうに笑い、釣られて自分も口元が緩む。
――今日、何の日か分かる?
彼女から唐突に投げかけられた質問に、壁に掛けてあったカレンダーを見やった。
先日変えたばかりのそれはまだ見慣れない。
ついこの間年が開け、新しい一年が始まったばかり。
「……?」
『やっぱり分かんない?』
今日の日付を示す数字としばらくにらめっこ。しかし枠の中には“会議”と今日の予定が一言だけ。
わざわざ聞いてくるくらいだ、これ以外の何か大切な日なのだろう。少し考えてみる。
まずは架音の誕生日。
いや、これは違う。いくら忙しくとも自分が今更彼女の誕生日を忘れるはずがないし、カレンダーを壁に掛ける前に書き込んだ記憶がある。
では自分たちの結婚記念日か何かか、と思ったがこれも違う。まず季節が冬ではない。
他に何か記念日でもあっただろうかと考えてみるが思い浮かばない。付き合った日など結婚記念日で上書きされてしまったし、祝う習慣もここのところなかった。
他に考えられるとすれば季節の行事か何かか。
『…覚えてない顔ね。去年もそうだった』
「……、去年も?」
どうやら架音はこの光景に見覚えがあるらしい。
前回もそうだったのかと、必死に答えを探していればひとつだけ思い当たったが彼女の方が先だった。
『貴方の“誕生日”よ。我愛羅』
「……、…そうだったな……」
思い返せば記憶にある。いつになったら覚えてくれるのと、呆れながら話す彼女の姿。
自分にとっては記念日でも何でもないその日のことは毎度のことながら記憶に薄い。
架音に言われなければ過ぎたことにも気づかないだろう。
溜息を吐く彼女に苦く笑っていれば、彼女は不意にパンと手を叩いた。
『それでね、今夜はわたし主催でパーティーをやることになったの。我愛羅が風影になって初めての誕生日だから!』
「…パーティー…?」
『里のみんなでお祝いするの!』
今テマ姉達が用意をしているところよと彼女が笑う。自分の目の届かないところでそんなことが行われているとは。
何人呼ぶ気なのかは知らないが、さぞかし賑やかになるだろうと思っていれば架音も「うるさくなりそうだけど」と笑った。
『本当は身内だけでやろうと思ったんだけど、試しに参加者募ったらたくさんいて。
せっかくだからこの際出入り自由で騒ごうかなって…うるさいとこ苦手そうな我愛羅には申し訳ないけど』
――少しでも楽しんでくれたら嬉しいな。
そう言って笑う彼女に、気づけば礼を言っていた。
誕生日のお祝い。
いつも生まれたことを恨まれてすらいた自分に、こんなことをし始めたのは紛れもなく架音。
今でも慣れていなくて、ましてや里を上げてパーティーだなんて。嬉しくて、一方でくすぐったい。
『我愛羅ってばいっつも誕生日忘れるから、今日のパーティーで今度こそ覚えてよね』
「……努力する」
『うん、そうして。
それとね我愛羅、プレゼントがあるの』
「プレゼント…?」
「今渡しておくね」と架音がガサゴソと何かを取り出す。
黙って見ていれば綺麗に包まれた箱と花束。
――お誕生日おめでとう。
架音からのその言葉が一番嬉しいことに、きっと彼女は気づかない。
「…、マフラーか…」
『手編みなの。…ベタだったかな』
「作ったのか?器用だな……大切にする」
箱から出てきたのは赤いマフラー。
市販のものかと思えば彼女お手製らしく。
こんなもの作るには相当手間と時間が要るだろうと、せっせと編んでいる彼女を想像すれば自然と口角が上がった。
「ありがとう。花も綺麗だな…」
『ふふ。真っ白で雪みたいでしょ?
それ、今日の誕生花なの』
「誕生花?」
貰ったマフラーを首に巻きながら、次に目がいったのは花束。
淡いピンク色の包み紙にくるまれていたのは白いバラ。
他の種類の花は混じっておらず、純白のバラのみでできた小さな花束。
どうやらこの花は今日の誕生花に指定されているらしい。
『白バラの花言葉……知らないよね。言っても、いい?』
「…?
ああ……?」
『聞いてみるいいチャンスかなって、思って』
「…?」
白バラの花言葉。ただそれを言うだけなのに、何を躊躇しているのかと思えば。
頷いてから数秒後、少し心配そうに控えめに文字を並べた彼女を、きつくきつく抱きしめた。
“私はあなたにふさわしい”
(そうだといいんだけどとはにかむ彼女)
(俺には、お前しかいないのに)
END.
誕生花の辞典:1月19日の誕生花「白いバラ」